信州ブックレットシリーズ6電子書籍版
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とか、そういうものは、論理の上ではおかしいのではないかということを彼は指摘しています。 ちょっと違和感を持たれた方も多いと思うんですね。私は、違和感を持たれた方は、シェークスピアの『ヴェニスの商人』を思い出していただければと思います。論理的には、あるいは契約書上は、一見正しそうでも、会社という血の通った存在から、経済的価値だけを取り出すことはできないのではないでしょうか。良い製品・サービスを作るという企業の経済目的は、環境への配慮や雇用の適正化などと密接不可分です。したがって、企業が社会的責任を果たすことは背任行為だから、経済目的だけを果たせと言われても、現実には、利益至上主義的な企業活動を強いることは、企業の社会における役割を大きく損ね、人々の信頼を失うことともなり兼ねません。それに、そもそも、現代社会は、本当に市民社会なのでしょうか。市場経済や株式会社だけでなく、市民という言葉も、バーチャルな響きを持っているように思えてなりません。 ただ、フリードマンがCSRについて問題提起をしたのは、もう40年以上前のことですけれども、残念ながら、その後、経済学者も、経営学者も、フリードマンにしっかりとした反論ができなかったんですね。いや、反論した人はいるかもしれませんが、著名な経済学者、経営学者でなかったが故に、反論は世の中に届かなかったといった方が正確なのかも知れません。 最近になって、マイケル・ポーターというハーバード大学の経営大学院教授が、「CSR」に対して「CSV」という新しい概念を出しました。これは語呂合わせという意味ではちょっと品がないと思いますが、「R」と「V」は全然意味が違っていまして、CSRというのはCorporate Social Responsibility、「企業の社会的責任」ですが、CSV82

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