信州ブックレットシリーズ6電子書籍版
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かもしれません。株主の了解なく、会社のスタッフや財産を使って、例えば、地域貢献に尽力したりすれば、形式的には背任行為として追及されるかも知れないということになるわけですからね。 フリードマンは、経済学の論理の中でこの問題を整理しています。これはどういうことかというと、経済学の世界の中では、株式会社とか市場というのは、純粋な、いわば非常にモデル的な存在でありまして、流行の言葉で言えば、(もう流行っていないかも知れませんが)「バーチャル」ですね。バーチャルな存在なんです。株式会社のシステムはバーチャルな世界のものなのですが、リアルな世界をバーチャルに一致させようとしているのが、経済学者です。とりわけ、保守派の経済学者の場合には、極端に言えば、バーチャルな市場システムの方が正しくて、現実をバーチャルな世界に近づけることが経済学の使命だと考えている節があります。 じゃあ、フリードマンというのは、CSRを認めないぐらいだからとんでもない冷血漢だったのかというと、話はそれほど単純ではありません。フリードマンは、本来、社会的な目的を果たすのは、市民社会の構成員であるシチズン(市民)であるべきだと主張しています。株主こそ、市民であり、この人たちが社会的責任を果たさなければならないわけです。 例えばビル・ゲイツは、「ビル・ゲイツ財団」をつくって、エボラ出血熱のためにお金を寄付したりしています。株主が会社から配当を受けて、その配当のお金を使って社会に貢献すべきなのではないかというのがフリードマンの考え方です。もちろん、社会貢献が定款で書いてあれば問題ないのですが、定款で会社の業務として定めていないのに、社長や部長、あるいは担当者が思いつきで、例えば、会社の周りの道路をきれいにしようだとか、地域のためにいろいろ応援しよう81

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