信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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安全が慢心を生む 安全が安心を生まない代わりに,慢心を生むことがあります。安全対策を実施して,たとえばすごく高い防潮堤をつくって,だから大丈夫だろうと思っていたことで,津波のときに逃げなくて,結局津波にのまれた人も多かったわけです。巨大な防潮堤があるためにそれに依存して,逆に防災意識が低下して,危機意識が低下して,逃げ遅れる。 また,最近の雪山のバックカントリー事故もそうです。スキー板やスノーボードが改良されたことで,それほど技術がなくても新雪が滑れるようになってしまったために,よりリスキーな行動に出てしまう。スキー場の外に出るというハイリスクを負担しているにもかかわらず,リスクの認知がそれに対応していなかったから,結果的には,遭難の事故などを起こしてしまったわけです。 自動車の運転もそうです。いろいろと安全装置が充実してくると,よりリスキーな行動をとっても,装置のほうで吸収してくれるから問題がないと思ってしまう。そういう技術面などからリスクが低下すると,その分だけリスクを引き受けられるのりしろが増えるので,それを埋めるかたちで,行動がよりハイリスクに変わってしまうという人間の特性があります。もちろん安全運転をする人もいれば,せっかくだから運転の性能をさらに引き出してみようと,リスキーな行動をとってしまう人もいます。そういう意味での人間の心理がはたらくことも,実際の対策では考慮しなければいけません。(3) リスク対策認知されてこそのリスク 最後,まとめになります。まず,リスクの認知の重要性です。そもそもリスクと認識されないと対策がとられない。不幸なのは,例68

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