信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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逃げるから,家に戻って確認するな,とお互いに話し合っておく。互いに信頼し合っていれば,親も子どもも真っ先に高台へ逃げて,無事,親子再会ということになるわけです。しかし,お互いがお互いを心配して家に戻ってしまうと,親子ともども津波にのまれてしまうという最悪の結果になってしまう。それを避けるためにも,いざとなったら,ばらばらに逃げることを互いに分かっておく。それができるような信頼関係を日ごろからつくっておく。これが第三の意味の,「相互信頼の事前醸成」です。 最後は,「生存者の自責感の低減」です。自分だけが生き残ってしまったことへの申し訳なさ,自責感を軽減する。津波で,いざとなったら,みんな,人のことはとにかく放って,自分は逃げるんだ。それが結局は,みんなを助けることにつながるんだと考えるようにするわけです(それでも実際には他人を助けに行ってしまうことがあります。助けを求められたらなおのことです。ここに「てんでんこ」の難しさがあります)。「裏切り者」や「人でなし」という負い目ではなく,「生存者」として自分を前向きに捉えられるようにする。そういう事後のメンタルケアの配慮もなされていると思います。 このように「津波てんでんこ」には,事前,期中,事後の災害リスク・マネジメントに求められる要素が備わっており,三陸地方の人たちの生活の知恵と人生の教訓を私たちに伝えてくれています。大川の悲劇 「釜石の奇跡」と対比して語られる「大川の悲劇」はご存じですか。先ほどは岩手県釜石市の津波避難の話でしたが,宮城県石巻市の大川小学校では,108名いた小学生のうち70名が亡くなり,11名の教員のうち10人が亡くなるという大惨事になりました。 どういう状況だったのかというと,地震発生後,とりあえずグラ64

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