信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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と呼び掛けたら,釜石市だけ手を挙げた。そこで釜石市とのお付き合いが始まりました。 最初は,学校現場でも,総合学習の時間のほうが重要だとか,防災にそんなに時間を取れませんなどと冷淡な反応でした。しかし,教育委員会の教育長に話をしに行ったら,その人は釜石の出身で,津波災害のことに理解が深かった。教育長の全面的な支持が得られたことで,学校現場での津波防災教育への取り組みが本格化した。こういう流れがあった。 そして,このような活動を続けてきた中で起こった,震災だったということです。普段練習していたことを実行して助かった。それは実績だと,こう小学生が言うくらいだった。津波てんでんこ また,土地で言われている知恵として「津波てんでんこ」という言葉があります。これは,津波が来たら,てんでんばらばらに逃げろと。家族のことを心配して家に戻ったりすると,それで津波にのみ込まれて一家全滅という歴史を,過去の三陸大津波で何度も繰り返しているから,その苦い教訓を踏まえて,津波が来たら,家族のことは考えずに,一目散に高台に逃げろという話です。 京都大学の矢守克也教授は「津波てんでんこ」には,四つの意味があると指摘しています。第一に,「自助原則」です。一刻を争う事態なので,自分の身を守るために,情報を待たずに,テレビをつけて津波情報を確認するなどしないで,一目散に逃げるということ。 もちろん,率先して逃げることで,それを見たほかの人たちも逃げ始める。自分が逃げることによって,他者の避難行動を促すことができる。これが第二の意味で,「他者避難の促進」です。 そして,家族とか友人,知人などの間では,事前に,ばらばらに63

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