信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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に供給されないという状況にしてしまいます。 この二つのミスがあって,どちらのミスを減らすのかということです。つまり,一つのミスは,作為の過誤。作為の過誤は,積極的行為によって犯す間違いです。もう一つのミスは,不作為の過誤。不作為の過誤は,消極的行為,法によって期待されることをしないことによる間違いです。 医薬品の承認の例では,不作為の過誤が起こりやすいです。本来は承認するべきなのに,慎重に審査して時間がかかったことです。「ドラッグ・ラグ」などと言いますが,審査期間が延びて,必要な患者が待っている間に死んでしまうというような事態が起こります。 なぜか。もう一つのミスである作為の過誤を犯すと,本来なら認めてはいけない薬品を認めたことになる。そうなると,行政の判断が痛烈に批判されるので,役所としては,そういう責任を回避したいという動機が強くはたらく。結果的には,作為の過誤を回避したい,低く抑えたいから,トレード・オフとして不作為の過誤の確率が上がってしまう。つまり,慎重に審査したために,本来ならば短い審査期間で済んだ何の問題もない薬が,必要な患者に届く時間が長くかかってしまって,肝心の患者を死なせてしまうというようなコストが発生することになります。 これは,言ってみれば,見えないコスト,役人にとっては関係のないコストだから,本人たちに直接降りかかってくるコストのほうを削減しようとするインセンティブが強いわけです。そこを変えない限り,この構造は変わらない。役人の,その担当官の責任をどう処理するのかという問題は難しいです。個人的な司法責任を問うことをするのか,しないのか,そういうところも含めて関わっている問題です。責任問題のあり方を解決しない限り,官僚が責任回避の姿勢をとるのは,彼らにとっては合理的な姿勢になります。52

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