信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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が遅れてしまう。リスクへの対応が後手に回ってしまうのです さらに悪質なのは,防災上の失策を隠蔽するために,群衆がパニックを起こしたからと,それを理由にすることです。つまり,パニックを理由にして,群衆に責任を転嫁する傾向があることを,東京女子大学の広瀬弘忠名誉教授は指摘しています。 以前(2001年7月21日),兵庫県明石市で,花火大会の帰り道に,歩道橋で人々が将棋倒しになって,小さな子どもや老人が圧迫されて窒息死した事件がありました。あの原因は防災管理上のミスです。10万人以上を超える人出が見込まれていたにもかかわらず,それに見合った防災計画を市や警備会社は立てていなかったことが根本的な問題でした。にもかかわらず,市と警備会社が談合して,当時,警察が暴走族の取り締まりなどに力を入れていたので,茶髪の若者が暴れ出したというような話をつくりだし,それで人々が騒ぎだして将棋倒しになった,というシナリオをでっち上げたのです。しかし,これは警察の調べで,嘘だったことが後に判明しました。 このように,管理者側の責任転嫁として,茶髪の青年をスケープゴートにしたことが明らかになっています。まさに防災上の失策を隠すために,一般市民に責任を転嫁して,パニックというものを安易に持ち出したということです。これは,群集心理というよりは,管理者側の組織的問題です。 以上が心理的なバイアス,あるいは思い込みの代表的なものですが,これらが単独で,あるいは複数のバイアスが組み合わされることで,致命的なリスクを見落としたり,危機的な状況からの脱出が遅れたりすることになってしまいます。40

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