信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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う。現実のリスクより大きく見積もってしまうことがあります。 アメリカが9・11のテロを経験したとき,テロ事件に対するリスクを過大に評価して,結果的にはイラク戦争へと行ってしまうわけです。同じ時期,カナダではSARSが流行っていました。テロの被害国でなかったカナダでは,テロのリスクよりも,SARSのリスクのほうがずっと強く認識されていました。アメリカもカナダも同時期の出来事ですが,それぞれ国内でどういう出来事に社会的な関心が集まっていたのかで,リスクの評価が違ってきます。確率無視バイアス セクションⅠでは,人間には低い確率を高く見積もるバイアスがあるとお話ししましたが,そもそも確率を無視して考えてしまうという,「確率無視」のバイアスもあります。これは,最悪のシナリオのようなものを頭に浮かべてしまうと,それが起こる確率のことがすっかり抜け落ちて,あたかも確率「1」で起こるような感じで捉えてしまうわけです。 本来の環境リスクでは,ハザードと,その起きる確率の積で考えるのが,一応,合理的な思考です。確率が分からなくても,見込みの確率を考えて,その組み合わせ,積で考えるのが合理的な発想です。しかし,その確率を「1」と考えてしまって,確実に起こるような認識で捉えてしまう。これは,リスクを非常に過大に評価してしまうことになります。ハザードが大きいものに,確率「1」を掛けてしまうのですから,すごく大きなリスクとして評価してしまうわけです。それが,確率無視の場合です。正常性バイアスと集団的無知 「正常性」のバイアスとは,多少の異常事態が起こっても,異常38

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