信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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リスクの社会的合意 最後のポイントとして,リスクがリスクとなるためには,それを「リスク」と見なす問題が,社会的に,あるいは企業の中で提起されなければいけません。「これがリスクなんだ」という認識が,集団の中で,社会の中で共有されていないと駄目なのです。 環境リスク論で回避目標にされることが多い死亡リスクや発がんリスクは,誰もが避けたいことで,意見の不一致はあまりないので分かりやすいかと思います。 リスク認識の一致がうまくいかなかったのが環境ホルモン,内分泌かく乱化学物質です。1990年代後半に出てきたものです。環境省(当時は環境庁)がちょっと失敗したわけです。「SPEED'98リスト」といって,98年に環境ホルモンが疑われる物質をリストアップして,カップヌードルの容器に使われているポリスチレン樹脂などが疑われたりしました。ポリスチレンに関しては,メーカーの業界団体等が検査をして,環境ホルモンとしての影響はないと証明しています。 結局,リストに掲載された物質を詳しく調査した結果,人体に有意と認められる影響はなかったということで,2004年にはリスト自体を撤回しています。つまり,ちょっと早まってしまったのです。ただ,生物の中での生殖異常が見られたということで,世間を騒がせたというか,社会的に注目を集めました。 たとえば,巻き貝のイボニシの雌が雄になってしまって,生殖ができなくなって個体数が減少する。これは,船に貝などが付着することを防ぐために塗っていた塗料の中に含まれる有機スズ化合物の影響と言われています。そういういくつかの生物で,雄が雌化するあるいは雌が雄化するといった生殖異常が見られた。人間では精子の数が減少しているのではないかという報告があった。しかし結局のところ,多くのケースで,内分泌かく乱作用の影響がはっきりと33

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