信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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知バイアスをまとめています。また,人間の心理的な特性を踏まえた意思決定を扱うプロスペクト理論の基本的な考えを紹介するとともに,客観的な確率よりも主観的な確率が意思決定に大きな影響を与えることを指摘します。このため,リスクの評価では単独のリスクに注目するのではなく,複数のリスクを共通の尺度で測定し,比較することが重要になります。この点でリスクの定量化は,異なるリスクの比較を容易にするメリットがあると言えます。この他セクションⅡでは,統計学の知見を援用した二種類の判断エラーについて言及し,行政判断の是非等に応用した事例を検討しています。 総括となるセクションⅢは,「リスクに備える」です。リスク対策は,リスクがリスクとして認知されることで,はじめて可能になります。そのため,何が要注意なリスクであるのかについて社会的・組織的な合意を形成することが極めて重要になります。 組織の活性化を通じてリスクの認知を高め,リスクの認知を高める行動を通じて組織の活性化につなげる。このような好循環を実現するための社会的な仕掛けとして,岩手県釜石市の津波防災活動と三陸地方に伝わる格言「津波てんでんこ」の意味を考えていきます。 リスクの認知水準を高めるためには,各人が持っている情報を共有することも有効です。そして,現実化したリスクに対処するだけでなく,リスクが現実化する前に未然に防ぐ行動を促す動機づけを与えることが大切です。セクションⅢでは,リスク情報を構成員から引き出し,共有するための組織マネジメントのあり方についても言及します。 なお,時間の制約もあり,今回の講座では取り上げられなかった内容も少なくありません。このうち,状況が不確実なときの効果的な意思決定の方法として,①ベイズ的な意思決定と,②リアル・オプション的な意思決定,という二つのアプローチがあります。簡単iii

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