信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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 一例を紹介します。そもそも化学物質の毒性評価は動物実験で行いますが,最近では動物の権利も考えなければいけないので,露骨な動物実験,大規模な動物実験もなかなかできない状況です。したがって,予算の関係もありますが,せいぜい数匹,数十匹程度の動物を対象に,毒性がないかどうかを検査します。 強い毒性があるならば,全部死ぬと出てはっきりする。しかし,1匹が死ぬか死なないか。とりあえず試験期間中はみんな生きている。そういう可能性もあるわけです。 数十匹を対象にした場合,環境リスクはもともと非常に低いリスクですから,「1」という数は出てきません。10万分の1のリスクなのに,100匹を対象にしても,「1」という数は出ません。10万分の1×100というのは1,000分の1ですから,「1」に到達しないわけです。そうすると,10万人とか100万人規模の人間を対象とした場合に影響が出ないと判断するのは,根拠としては弱いわけです。せいぜい数十匹の動物実験で毒性がないから,人間でも大丈夫だというのは,少なくない飛躍があることになります。 また,薬であれば,臨床試験というかたちで,副作用のチェックをしている。もともと人間が飲むものを想定しているから,臨床試験として最終的には人体実験をしています。しかし,普通の化学物質を人間の体内に入れて影響を見るなんていうことは,できません。ですから,動物実験,限られた規模の動物実験で憶測するしかない,推定するしかないのですが,場合によっては大きな危険性が隠されたままでいるかもしれないのです。分母に注目する もう一つは,リスクの計算のときの分母が重要です。図表10では消防活動による100万人当たりの死亡者数を示してあります。三つ30

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