信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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 しかし,全てのリスクに予防措置をとることは不可能です。高いリスク,すなわち非常に深刻なハザードで高い発生確率があるものが最優先ですが,そうではない低いハザードで低い発生確率の低リスクにも同じように費用や人員を割くのかということが議論になり,ある一定値以下のリスクは対策しないというのが,環境リスク論の基本的な立場でした。 環境リスク論の,ある種つらいところは,環境リスクというのはもともと低リスクで,大規模な人数を対象としたときに,はじめて影響が出てくる可能性がある。化学物質の汚染とか。しかも,すぐには出てこなくて,20年,30年後に影響が出るかもしれないので,それを低リスクで,影響もあまり出ていないから,何の対策もしないと,将来にわたって深刻な被害が出る可能性もあるわけです。 しかし,低いリスクと評価されたものには特に対策をしなくてもいいという発想は,リスク論から出てきてしまう。ある種の現実的な割り切りとして仕方がない面もあるのですが,そこに完全に割り切れない,思わぬ落とし穴があるのです。 一方で,予防原則の,あらゆるリスクに対して備える,できればゼロ・リスクにしろというのは,非現実的な要求であって,実現性がないものになってしまう。そういう意味で,環境リスク論を支持する人たちと,予防原則を支持する人たちは,この点において鋭く対立します。この話は,ここまでにしておきます。毒性評価の限界 もう一つ,リスク論に関しては,これまでも時々申し上げてきましたが,リスクの前提条件を吟味しなければいけません。計算ですから,どういう仮定に基づいて,この数字が出てくるのか,ということです。仮定によって数値はだいぶ違います。29

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