信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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(9) リスク論の限界と留意点リスク論VS予防原則 これまでリスク論の限界を小出しにして話してきましたが,ここでまとめます。リスク論は,一定値以下のリスクは無視していい,というスタンスなので,低リスクのものは,先ほどの基準ですと,100万分の1以下のリスクは受け入れてください,と言っているわけです。それくらいは仕方がないですね,一生に一回のリスクだからと。それを「嫌だ,ゼロにしろ」という人がいるとすると,対立するわけです。 環境リスク論,リスク論の発想は,100万分の1にせよ,10万分の1にせよ,1,000分の1にせよ,ある一定値以下のリスクは許容してくださいというスタンスです。それは,全てのリスクに対応するには資源が足りないからという考えがあります。 これに対して,「予防原則」というものがありまして,1992年のリオデジャネイロの地球サミットで国際的には知られました。完全な科学的な確実性がなくても深刻な被害をもたらす恐れがある場合には,その対応を遅らせてはならないという内容です。 日本の場合には,1960年代に,水俣病や四日市ぜんそく,イタイイタイ病などの公害問題があり,そのときの反省から,1960年代に厚生省のミスター公害と言われた当時の役人が,私と同じ「橋本」という名字ですが(橋本道夫氏),もちろん何の関係もありません。その人が,水俣病の反省を踏まえて,イタイイタイ病のときに予防原則的な発想で取り組むのです。 日本の場合には,公害問題がありましたので,60年代後半ぐらいから,こういう考え方は出てきてはいました。それは,政策として現実に適用されたかどうかは,また別な話になりますが,発想としては生まれてきていました。28

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