信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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決定を取り巻く環境の特性に応じてタイプ分けし,それぞれの状況を理解することから話を始めています。そして状況が不確実なときの意思決定では,確率が重要な意味を持ちます。合理的な意思決定の基準となる期待効用の計算では確率が不可欠です。また,リスク論においても確率の考え方を取り入れることで,リスクの大きさを数字で端的に示せるようになります。さらに確率の考えを応用することによって,統計的生命価値や費用便益分析の計算が可能となり,リスク対策の政策評価が定量的に行えるようになります。もっとも,ある選択からどのような確率でどのような結果が生じるのかについては事前に予測が常に可能というわけではありません。それでも,たとえ大まかな分類でも確率的な発想を適用することで,意思決定の見通しをよくし,リスク・マネジメントの指針に役立てることができます。 このように確率的に表現してリスクを定量化することは,確かに有用です。しかしその反面,本文でもたびたび強調していますように,リスクの評価ではその量的な側面だけでなく,質的な側面を捨象することがないように注意しなければなりません。質的な相違が著しい場合には,リスクの量的な大小を単純に比較することはできないからです。たとえば,量としては同じ大きさであったとしても,医療放射線など自発的に引き受けたリスクと,原発事故の汚染地域のように非自発的=強制的に引き受けさせられたリスクとでは明らかに性質が異なるため,等価と見なすことは不適切で,その違いを考慮する必要があります。 講義全体は三つのセクションから構成されていますが,以上に述べたセクションⅠでは,環境リスク論から見た意思決定のあり方を解説しています。続くセクションⅡでは,「リスクに気づく」と題して,リスクの過大評価や過小評価あるいは無視につながる主な認ii

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