信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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的に引き受けさせられたリスクであり,決して同じではない。しかし,数字にしてしまうと同じになってしまうわけです。 ですから,定量化にはそういう限界があるのですが,そこに質的な差がないと見なすことができるならば,量の問題とすることで,足し算などの計算や比較ができて,非常に効果的になります。ペルーの教訓 水道水の塩素消毒の場合には,そういう意味での質の違いはないので,足し算をして,その合計値を最小化することがベストな組み合わせ,ベストなリスク・マネジメントだと言えると思います。 最近の事例では,1991年1月に,ペルーで30万人のコレラ患者が出て,3,000人以上が死亡する事件が起こっています。その原因は分かっていて,中国貨物船の船底にたまっていた水がコレラに汚染されていたことが,事の発端です。それを港に放流したことで魚介類がコレラ菌に汚染され,その汚染された魚介類を食べた人たちがコレラにかかりました。そして感染者の排泄物を通じて,コレラ菌が井戸水や水道水に入り込み,やがて大流行となりました。 なぜコレラが蔓延したかというと,飲み水の塩素処理をやめていたからです。発がんの可能性があるというアメリカの調査報告が,一応口実になっています。しかし,実は,塩素消毒の費用負担が嫌だったのではないか,単に塩素消毒の費用節減が動機なのではないかと。そうは言えないので,発がんリスクを建前にして,発がんリスクを避けるために塩素消毒をやめたと,ペルー当局は言ったわけです。 その結果,コレラの死亡者を多数出してしまった。カウンター・リスクを招いてしまったという教訓です。17

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