信州ブックレットシリーズ5電子書籍版
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自殺はそれより一桁小さい24人。交通事故は,さらに一桁下がって9人。火事も同じ一桁台ですが,1.7人。自然災害は,さらに一桁下がって,0.1人。要するに,100万人に1人ということです。落雷になると,さらにもう二桁下がって,0.002人になる。これが,人口10万人当たりの死亡者という基準から見たときの,リスクの大きさになります。 こういう尺度で,まったく異なるリスクが同じ物差しの中で比較可能になるということが,定量化して,ある基準ではかることのメリットです。これはこれで極めて有効ですが,完全ではなく,問題点はいっぱいあるので,それはまた後ほどにします。(5) リスクのトレード・オフと総リスクの管理リスクのトレード・オフ――水道水の塩素消毒問題 リスクを数量化することによって足し算が可能になると話しましたが,これに関連して重要なことは,リスクのトレード・オフです。あるリスクを下げようとすると,別のリスクが高まってしまう,という対抗リスクの存在です。 有名な例が,水道水の塩素消毒のケースです。ご存じかもしれませんが,水道水を塩素消毒すると,トリハロメタンが微量ながらも発生します。トリハロメタンは発がん物質です。したがって,発がんリスクを避けるのであれば,塩素消毒をしないことになります。家の蛇口にトリハロメタン除去のフィルターを付けているご家庭もあるかと思います。現実には,水道では塩素消毒を行っています。感染症リスク,細菌が繁殖することを防ぐためにやるわけです。 図表6は,塩素消毒の有無によるリスクの変化を示しています。横軸は塩素消毒の強度で,CTが濃度を表しています。縦軸は年間の死亡リスクで,対数値です。実線が感染症リスクで,塩素殺菌し13

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