<写真①>今回開発したセパレーター。PVDFナノファイバーとPETマイクロファイバーの複合化により、従来のセパレーターよりも耐熱性、強度、イオンの透過性が大きく向上している。

 7月28日(金)、信州大学先鋭領域研究群 国際ファイバー工学研究所の金翼水准教授(フロンティアファイバー研究部門)は、ナノファイバーを用いてリチウムイオン二次電池(※1)に使用する「セパレーター(※2)」と呼ばれる部品の大幅な高耐熱化と高機能化、そして大量生産を同時に実現することに成功し(写真①)、共同研究者の兵頭健二 特任教授、(株)ナフィアスの渡邊圭 代表取締役と共同で記者会見を行いました(写真②、③)。


 セパレーターとは、リチウムイオン二次電池の正極と負極を分離する重要な役割を持つ部品です。今回発表したセパレーターは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーと、ポリエチレンテレフタレート(PET)マイクロファイバーとを複合化させたナノファイバー不織布を応用したもので(写真②、写真③)、従来のポリエチレンやポリプロピレンを用いたセパレーターに比べて耐熱性が非常に高いことが特徴です。また、PVDF-PETの複合化によって強度も大きく向上すると共に正極-負極間での反応性も向上し、セパレーターの超薄膜化によって電池のさらなる小型化・高出力化・大容量化に貢献できる画期的な素材となりました。加えて、ナノファイバーの特徴を活かしつつも、PETを複合化して耐久性を高めたことにより、材料の高機能化と低コスト化も同時に実現しました。

 本成果は、ナノファイバーの大量生産技術をコア技術とする信州大学と、天間特殊製紙株式会社(静岡県富士市)、信州大学発ベンチャー企業である株式会社ナフィアス、N2Cell(資金協力)の産学協同研究によって得られたものであり、著名な国際ジャーナルである ACS Applied Materials & Interfaces誌(インパクトファクター:7.504)にも掲載が決定しています。

●用語の解説
※1 リチウムイオン二次電池:正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池(充電することにより多数回の使用が可能な電池)である。携帯電話、コンピューター、電気自動車などに活用され、全世界的に普及している。

※2 セパレーター:リチウムイオン二次電池の正極と負極の間に存在し、それぞれの極にある活物質を絶縁している。表面には細かい孔が無数に空いており、イオンのみが行き来することで電力を発生させる。本研究ではナノファイバーをセパレーター素材として使用することにより、表面の細孔比率を90%以上とし(従来品は40%程度)、かつ均一な口径で分布させることに成功した。


<写真②>記者会見の様子。左から:国際ファイバー工学研究所長 高寺政行、金翼水 准教授、兵頭健二 特任教授、(株)ナフィアス 渡邊圭 代表取締役

<写真③>開発したセパレーターの実物をもつ開発者の金准教授、兵頭特任教授、渡邊代表取締役