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森本信吾 特任准教授からのメッセージ

森本信吾特任助教1

私は大学卒業後昭和電工に就職し、アルミニウム電界、黒鉛電極の製造などにおいて業界の先端技術の開発に従事してまいりました。結果的にライフワークになりました太めのカーボンナノチューブ(VGCF)がリチウムイオン電池に採用され、電池容量の増大、電池の安全・安定性確保に貢献できまた現在も貢献できていることは自信につながっています。
ナノテクプラットフォーム事業ではVGCFを社会実装した経過と重ね合わせながら長年にわたるものつくり・用途開発の経験を駆使して課題毎の解決策を見いだせるように支援差し上げています。

社会実装できた実体験を当時を振り返り視ながらシリーズ的に苦労したところを紹介していきたいと思います。

1970年代、PAN系の炭素繊維が期待したスピードで利用できるレベルの価格に下がってこなかった時期に信州大学工学部の遠藤先生のところで新しい炭素繊維を作る方式があるとの情報で遠藤研究室に出入りし始めました。当時の製法は基板法と言われていて、確かにVGCFは生えてくるのですがその量たるや微々たるもので通常の工業製品で議論するkgあたり何円という数字は全く描けませんでした。 それでも一縷の望みを託してある量を造り大学、企業にサンプルを提供して用途探索をしていただきましたが展開は全くありませんでした。当時上司から命令されていたノルマは年産1000トン、単価1000円/kg、年間売上10億円。次元の違う数字を眺めながらの数年が過ぎたところで1986年に触媒源としてフェロセンを使ってみては?とのヒントをいただき予備実験を進めながら社内の製造プラントを見学して歩きいくつかのヒントを得たところで装置を改造し、当時の技術レベルでは想像を絶する実験を行いました。しかし、最初の実験において現在でも出回っているVGCFの産声を確認できました。
大量に合成できるレベルになったのですが過酷な条件で製造しているのでタールや触媒残さが大量に残留しているのでまだ使えるものではありませんでした。幸いなことに周囲に炭化と高温で熱処理する黒鉛化技術があったのでそれを応用して不純物の少ない今流で言えば太いCNTを得ることができました。生産性が数千倍向上し、再現性も確認できたので改めて大学、企業にサンプル出荷して用途開発をお願いしていたのですが、VGCFの添加で性能は改善されるが、ユーザーが想像するレベルでの価格を描くことはできませんでした。

私自身が電気化学系の技術者であるので友人ルートを頼って電池メーカーに評価依頼したところ、結果は同じで性能は良い!但し単価が高い!とされていました。ところがここで神風が吹きました。当時携帯型のパソコンが流行しはじめ、エンジニアが旅行中にも操作する時代になっていました。しかし、米国の東海岸から西海岸に飛ぶ飛行機の中でパソコンを使うと半分ぐらい飛んだところで電池切れ!これを何とかしてくれという緊急指令が出ました。使われている電池はリチウムイオン電池、早速テストしたら少量添加でも要望を満たすことができました。その時設定した価格が5万円/kg、材料としては高いですが効果が絶大であったのでユーザーからは二つ返事でOKが得られたし、事業を止めないでくれ!止める提案が出たときは社長に嘆願書を書くとまで認めてもらいました。
その後いくつかの試練はありましたが最近の情報では年産200トンを300トンに増設する計画があるとのこと。30年前に上司から拝領したノルマは完全には果たしていませんが少なくとも売上・利益の面では完全にクリアーしています。素晴らしい成果が日本ばかりでなく海外においても評価される仕事ができたことをうれしく思うし、チャンスを与えていただいた関係者には感謝いたしています。

さらりと経過を書きましたがここに至るには筆舌に尽くし難い苦難もありましたので次回以降続編を書きます。 森本信吾特任助教2