遠藤特別特任教授メッセージ

1.研究者にとって共同研究とは

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信州大学工学部における共同研究は、長野県内に研究所と工場を持つ昭和電工株式会社(本社:東京都港区)との連携がきっかけでした。まだ共同研究が黎明期だった1982年に、身近にカーボンの研究をしている大学があるということで興味を持たれ、声をかけていただいたんです。そこを起点に産業界との関係が横に横に広がっていき、現在のような大きなネットワークになっていったんです。大学というものはもちろん教育と研究がベースなのですが、特にその研究をどうやって社会に役立てればいいのかというノウハウには乏しいものです。それは、研究者が持っている技術のシーズ(=種)と社会のニーズ(=需要)との間にギャップがあるからです。企業の方々は、市場のニーズに日常的に触れているため、常に一歩踏み込んだ情報を持っていらっしゃる。産学連携は、大学にとっては科学・技術を社会に応用させていくという点、また企業にとっては新たな発想で市場を開拓するという意味で、これからの時代に産学連携は不可欠な要素です。

2.セカンドフェーズへ進んだ共同研究

大学での成果を企業に持ち込み再実験をし、問題があれば大学へ戻し、また企業へ持っていく。キャッチボールのようにそういった手順を踏むのがこれまでの共同研究でした。技術を少しでも進歩させることがその目的だったので、当時はそれでもよかったんです。しかし今は、途上国を含めた世界各国でICT革新もあって驚異的なスピードで技術が進歩し、それに伴い市場や情報も目まぐるしく変化しています。そのスピードは、成長の早い犬にたとえて「ドッグイヤー」と呼ばれているほどです。今、日本に求められているのは単なる技術の進歩ではなく、イノベーションです。イノベーションとは、モバイル技術やITのように、技術の枠組みを大きく変え、社会の仕組みを地球規模で刷新してしまうような技術のことです。そういう意味で産学連携による共同研究は、90年代からずっとやってきたスタイルでは通用しない、新たな段階での展開、すなわちセカンドフェーズに入ったといえるでしょう。

これまで以上に研究室と企業が一心同体となり、社会のニーズに迅速かつ的確に応えていかなければならないのはもちろんですが、それだけでは不十分です。イノベーションを起こすためには、まったく新しいスタイル、新しい戦略性をもった共同研究が必要不可欠です。研究の仕組みそのものを変えていかなければならないのです。まだ試行錯誤の段階で、こうすればイノベーションが起こせるというような仕組みはまだ誰も持っていません。そんな仕組みがあったら、世界中でイノベーションが乱発しているはずですからね(笑)。

日本の産業は孤立しているといわれておりますが、これは、これまでは日本のマーケットで通用すればいいのだという狭い視野で考えていたためです。シンガポール、フィンランド、スイスなどそれほど人口が多くない国では、はじめから世界を相手にしたビジネス展開を考えています。 日本は世界で一番進んだエレクトロニクスがあって快適な国だ、などということを追求するのはナンセンスな時代なんです。グローバルに考える仕組み、世界の70億人に対して貢献できる技術をつくるんだという発想。世界規模でイノベーションを起こすためには、そういった発想にシフトしなければならないのです。

3.カーボンナノチューブのこれから

カーボンナノチューブ技術は基礎科学の段階を終え、いろいろな応用が誕生しているのが近年の状況です。カーボンナノチューブ産業は年率110%以上で成長してきており、この勢いは少なくともあと10年は続くといわれています。このように期待されている材料分野はそうはありません。その中で、キーワードとなるのが「安全性」です。より安全な作り方、使い方が注目を集めています。先進各国でより安全性の高い商品の開発が進んでいる今、日本はエンジニアリングだけではなく、商業化の面でも世界的な競争の中にあります。私たちはより安全なカーボンナノチューブを世界に提案すると同時に、高性能化を進め、新しい用途を開拓すべく研究を進めています。先端を切り拓いているという自負心を改めて持ちつつ、競合に先行しているという実感があるので、私たちのカーボンナノチューブ研究が、セカンドフェーズに対応した産学連携研究の先鞭とすることが私たちの仕事です。21世紀の材料研究のモデルとして。

4.イノベーションに繋がる研究のあり方を探して

もう少し戦略的な話をすると、地域にいる高度人材を活用することが重要だと考えております。長野県には、現役時代は首都圏の一流企業で研究・開発を担当されていた方がたくさんいらっしゃいます。共同研究は、大学と企業や行政を結ぶコーディネーターが重要になってきます。日本の産業を立ち上げてきた経験と蓄積をベースに物事を判断できる彼らのような高度人材こそ、コーディネーターに最適なんです。それに、私は教育の世界に身をおいているので、これまでの経験や研究手法や知恵を若い人たちに伝播していくことが必要だと考えています。若い人たちには背中を見て育ってほしいんです。そういう点からも、コーディネーターの存在は重要です。彼らの持つさまざまな経験や実績を、学生をはじめとする若い世代に協力して伝えることで、間違いなく教育と研究でよい成果が生まれるでしょう。

私は、東京-大宮-長野-金沢をひとつのエリアとしてとらえ、長野県をカーボン技術と研究における「世界の首都」、いわばカーボンベルトに発展させるという壮大な夢を持っています。そのためには確実な成果を上げ、長野県が、企業が自然と集まる将来性のあるカーボン研究の世界首都たる拠点になっていくことが重要です。もちろん研究所だけの力では成しえないことですので、企業や地域、そして本学とともに地球の全体力を結集して、ともに力を携えながら発展していけたらと願っています。

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