平成28年10月にトリエステ大学生命科学科ゲノム薬理学研究室にて海外共同研究を行なった医学部5年生の中村駿介さんが今回の共同研究について報告してくれました。

以下、報告書より。

この度、平成28年10月2日から30日までの日程でトリエステ大学生命科学科ゲノム薬理学研究室にて海外研修を行った。
当初、現地での研修はヒトiPS細胞培養の指導と膵外分泌細胞の分化誘導の実施、誘導膵細胞と副作用で膵炎を惹起するチオプリン系薬物との反応の解析を行う予定であったが、先方のiPS細胞の導入の遅れにより、研修内容はチオプリン系薬剤の株化膵癌細胞への細胞傷害性の解析と解析法の習得に変更となった。具体的には、膵癌細胞株PANC-1にアザチオプリン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニンをそれぞれ添加し、24時間後のROS production、48時間後および96時間後の細胞の生存と細胞増殖について、NBTアッセイ、MTTアッセイ、³H-Thymidine incorporationアッセイを用いて評価を行った。また、肝細胞株IHHをアザチオプリン、6-メルカプトプリンをそれぞれ添加した培地で48時間培養したコンディションメディウムを作成し、これを用いて培養したPANC-1細胞についてもNBTアッセイ、MTTアッセイ、³H-Thymidine incorporationアッセイを行った。
これらは今後の共同研究のテーマとなるチオプリン系薬剤のiPS細胞由来誘導膵細胞への傷害性研究の予備試験という位置づけの研究であった。これまでに先方の研究室では肝細胞株IHHについて同様の試験を行っていたが、PANC-1細胞はIHH細胞に比べて³H-Thymidine incorporationアッセイにおいてより高い薬剤感受性を示した。しかしPANC-1細胞は癌細胞株であることから、正常な細胞や臨床像との比較は難しく、iPS細胞由来の誘導膵細胞を正常膵細胞のモデルとして評価に用いることへの高い期待を感じた。また、現地滞在中には研究室内でセミナーの機会をいただき、私がこれまでに行ってきたiPS細胞の膵細胞への分化誘導および膵前駆細胞の単離の研究と松本市について紹介した。また帰国後には、先方でiPS細胞の培養が開始されていない現状や、培養環境や手法がiPS細胞の培養には十分ではない状況であったことを組織発生学教室の佐々木教授、友常助教らに報告し、共同研究の実施に当たっては役割分担がより重要であるとの考えを伝えた(報告した際に使用したトリエステ、大学、研究室の風景などを添付)。
今回の海外研修は信州大学とトリエステ大学との共同研究の一環であり、バイオメディカル研究所による費用面での支援のもとに実現したものである。バイオメディカル研究所の皆様のご支援に感謝するとともに、共同研究をより円滑に進めるべく今回の研修を活かしたいと考えている。

中村駿介


トリエステ大学

実際に使用したクリーンベンチ

トリエステの街

中村駿介さん(前列中央)、Decorti教授のお宅でStocco先生、Perinさんとともに