タンパク質でナノスケールのサッカーボール型分子を創出

-ナノ材料の部品や薬物送達カプセルに応用可能な新たな中空ナノ粒子-

 慶應義塾大学理工学部生命情報学科の川上了史専任講師と宮本憲二教授、および信州大学繊維学部応用生物科学科の新井亮一准教授らのグループは、分子が自発的に組み上がる自己組織化という現象を利用して、サッカーボール形状のタンパク質ナノ粒子「TIP60」の構築に成功しました。TIP60は設計のとおり直径22 nm程度で内部が空洞の均質な球状分子であり、内部の空洞に小さな有機化合物を導入することや、TIP60同士を集合させてより大きな構造を作り出すことができます。これらの成果から、薬物を導入したナノカプセルとしての利用や、新たな分子構造を持ったナノ材料を作り出すためのナノブロックとしての利用など、ナノテクノロジーの発展に寄与することが期待されます。

 本研究成果は学術雑誌Angewandte Chemie International Editionへの掲載に先立ち、同誌Webサイトにてオンライン速報版が8月24日に公開されました。


1.本研究のポイント
◎自然界に存在する2種類のタンパク質を連結した、人工融合タンパク質を作製した。
◎60個の人工融合タンパク質が自発的に組み上がって中空のサッカーボール形状の分子(TIP60)になることを明らかにした。
小さな化合物をTIP60の内部空洞に導入できることを明らかにした。
◎TIP60分子自体をさらに集合させて巨大な構造体を形成できることを示した。




2.研究背景:
ナノ粒子は、発色剤、触媒、あるいは薬物輸送体など、幅広い分野に応用が期待される魅力的な物質材料です。実用化には、サイズや形状が均質な多数のナノ粒子の形成を行う必要があります。これまで、金属を原料としたナノ粒子形成手法が広く研究されており、形状、サイズが均質なナノ粒子形成が実現されています。しかし、いかに均質といえども、個々のナノ粒子は、原子のランダムな集合によって形成されるため、原子レベルで同一の構造を有するナノ粒子群を作り出すことは容易ではありません。そこで本研究グループは、基本的に原子レベルで同一の構造を有する生体高分子のタンパク質に着目しました。タンパク質を利用することで、ナノ粒子の性質を遺伝子変異導入や化学修飾によって自在に変換できるため、ナノ粒子に望みの機能や性質を付与できるようになる可能性があります。これにより、金属原子を用いるよりも遥かに簡単に、均質なナノ粒子群を開発できるのではないかと考えました。本研究では、タンパク質ナノ粒子の設計と構築に加えて、化学修飾やナノ粒子自体をさらに集合させてより巨大な構造体を構築する手法の開発などを行いました。

3.研究内容・成果:タンパク質ナノ粒子は、60個の人工融合タンパク質から自発的に組み上がる設計を考えました。図1に示すように、5角形の5量体タンパク質(上段左)とそれを繋ぐ手となる2量体タンパク質(上段右)を人工的に連結(上段中央)します。この2種類のタンパク質を連結した人工融合タンパク質同士が60個自発的に組み上がって、最終的にサッカーボール状になるという設計です。実際にこの人工融合タンパク質を精製したところ、電子顕微鏡観察や小角X線散乱解析などから、設計通りに直径22 nm程度のナノ粒子を形成していることを明らかにしました。サッカーボールの形状は、切頂20面体と呼ばれる多面体であり、人工融合タンパク質が60個集まってできる性質を表してTruncated Icosahedral Protein composed of 60-mer fusion-protein(TIP60)と命名しました。 TIP60は図1のように、内部空洞を持ち、また、表面には多数の孔が開いていると考えられます。実際に、小分子化合物を外部から添加すると、内部空洞に入り込み、TIP60内部表面の化学修飾により、TIP60に内包できることが明らかになりました。これは、薬物輸送などに応用が期待できます。その他にも、TIP60には全体的に負電荷を帯びているという性質もあり、正電荷を持つ物質を加えることで、TIP60同士もさらに集合させられることを明らかにしました。集合過程を分析したところ、ランダムな凝集ではなく、一定のルールにしたがった集合過程があることが明らかになり、今後、さらに巨大な分子構造を構築する際の部品としての利用も期待されます。

4.今後の展開:現段階では、TIP60の内側を化学修飾することに成功しましたが、今後さらに、内部に導入した小分子を自在に取り出せるような仕組みを構築できれば、有用な薬物送達カプセルになると考えられます。一方、規則的にTIP60同士を集合させられる性質は、従来法では作製が困難な100〜1000 nm程度の範囲の物質材料を狙ったとおりに構築できるようになる可能性があり、次世代のナノ分子材料となることが期待されます。

※本研究は、一般財団法人向科学技術振興財団の研究助成、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP18K05324、JP16K05841、JP16H00761)、分子科学研究所協力研究などの助成や支援を受けて行われました。また、小角X 線散乱実験は高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設共同利用実験(2016G153, 2016G606)としてPhoton Factory小角散乱ビームラインBL-6Aにて行われました。


<原論文情報>
タイトル: Design of Hollow Protein Nanoparticles with Modifiable Interior and Exterior Surfaces
タイトル和訳: 内部表面も外部表面も修飾可能な中空タンパク質ナノ粒子の設計
著者: 川上 了史1、近藤 宏紀1、松澤 祐樹1、早坂 薫1、那須 英里圭1、笹原 健嗣2、新井 亮一2、宮本 憲二1
1慶應義塾大学、2信州大学
掲載誌: Angewandte Chemie International Edition (DOI:10.1002/anie.201805565)


<用語説明>
※1ナノスケール:100万分の1~1万分の1ミリメートル程度のサイズ
※2 ナノブロック:ナノスケールの積み木素材分子
※3 人工融合タンパク質:複数のタンパク質が、遺伝子工学の技術によって連結され、一分子のタンパク質となったもの
※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、各社科学部等に送信させていただいております。

・研究内容についてのお問い合わせ先
慶應義塾大学 理工学部生命情報学科 専任講師 川上 了史(かわかみ のりふみ)
慶應義塾大学 理工学部生命情報学科 教授   宮本 憲二(みやもと けんじ)
TEL:045-566-1527 E-mail:norikawakami@bio.keio.ac.jp

信州大学 繊維学部 応用生物科学科 准教授/菌類・微生物ダイナミズム創発研究センター 超分子複合体部門 部門長
新井 亮一(あらい りょういち)
TEL:0268-21-5881  FAX:0268-21-5881 E-mail:rarai@shinshu-u.ac.jp

・本リリースの配信元
慶應義塾広報室(村上)
TEL:03-5427-1541  FAX:03-5441-7640
Email:m-pr@adst.keio.ac.jp
Website: https://www.keio.ac.jp/

信州大学繊維学部総務係(藤澤)
TEL:0268-21-5303 FAX:0268-21-5318
Email:fujisawa_midori@gm.shinshu-u.ac.jp
Website: http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/