きのこ類の資源探索と栽培技術の開発
菌根共生系の機能解明と利用技術の開発

研究内容と特色
研究分野の概況:本研究部門では、地域資源としてのきのこ類を高度・多面的に活用するための生物工学的な手法の開発、ならびに、20世紀後半に新たな生物学の一分野として台頭した菌根共生に関する研究に取り組んでいる。前者は、きのこ産業の国内拠点である長野県に存在する地理的・社会的特性を重視したもので、国内の国立大学では最初に教育・研究分野を整備し現在に至っている。後者についても、国内では創始期に教育・研究分野を整備し、農業系と林業系の双方に関係する領域を守備範囲とする、数少ない大学である。これらの点は、両研究分野を包含したキーワードである菌類学(Mycology)の分野において、信州大学が論文の世界ランク50位に迫る現状に大きく貢献している。

研究を支える社会的背景:国内の食用きのこは約4,500億円の市場規模を有し、その生産量の35%を長野県が占めている。また、長野県は野生きのこの資源も豊富で、近年の国産マツタケ(約100億円)の約5-8割は長野県産である。その一方で、きのこ産業の世界的な動向は、21世紀に入ってから急速な発展・変容を見せている。特に中国でのきのこ栽培が飛躍的に増大し、近年の年間生産量は日本の50倍に達している。これに伴い、日本で使用される輸入培地資材の高騰も懸念され始めている。また、培養が困難で栽培技術が確立していないトリュフ、ポルチーニ、アンズタケなどの野生きのこは、乱獲に伴う資源枯渇が世界各地で問題化している。さらに、木質バイオマスの効率的・多面的な加工・利用技術の開発ニーズが、パルプ製造、バイオ燃料製造、有機肥料製造等の現場で高まっており、その担い手としてきのこの酵素が注目されている。一方、2,000年代初頭に実用化されたストロビリュリン類(農薬)は、きのこの培養物から見出された残留毒性の少ない新規抗菌剤で、近年は畑作で使用される苗立枯防除剤の世界シェアを独占する状況である。
 きのこ類は、今日でも新種発見が珍しくないほどに膨大な未知資源を含むことが、世界的に指摘されている。長野県のように都市と自然生態系(森林)が隣接する立地環境に着目すると、未知資源(きのこ類)の探索をルーチンワーク化して新たな研究素材を迅速に応用展開させる戦略が有望であり、かつ、自然生態系へとフィードバックさせる資源保全の研究も可能と考えられる。山田らは、既にきのこ類の系統分類、遺伝育種、生理生態などで多くの成果を上げており、これらの知見を統合的に検証・発展させることで、きのこ類をより高度・多面的に利用するための解析手法(化合物探索、機能性物質探索)を開発できると考えられる。そして、その成果を地場産業に導入し、きのこ産業の新たな方向性を提示し、それをもとにした新たな社会モデルを提唱できると考えられる。
 本研究では、「地域資源の開拓」の観点から出口産業を異にする複数分野を1つに束ねた形できのこの研究を進めていく新たなアプローチを採用している。きのこの化合物探索では、子実体を用いた研究事例が先行しているが、培養株を用いた化合物の量産化に至った事例はごく限られている。また、これまでのきのこ栽培研究は培養の容易な種に限られており、野生資源を十分に活用してきたとは言い難い。本研究は、そのような未開拓状況を打開し、広範な研究分野での新発見・新展開を同時並行で目指す点で独創的である。
 きのこ産業は、従来の森林・林業分野にとどまらず、広範な分野へと研究展開が進みつつある。このため、研究の基本素材であるきのこ自体を生物工学的観点から十分評価し、その上で種々の研究分野へと供給できるような、研究の拠点形成が不可欠な時期に差し掛かっていると考えられる。現在、長野県はきのこ栽培の国内拠点であり、そのための研究開発においても、信州大学を含めて高い競争力を有している。このため、信州大学が広範なきのこ産業分野の研究拠点としてより優位な状況を作り出し、国際的な研究拠点の一つになることで、長野県のきのこ産業のさらなる成長を核として、日本のきのこ産業全体の底上げも図られると予想される。

部門長 山田 明義(2016年10月01日)