センター紹介/About CFMD

菌類・微生物ダイナミズム創発研究センターの発足にあたり

   CFMDセンター長 下里 剛士 菌類および微生物は、生態系の役割の中で分解者や共生者、あるいは病原体として物質循環や群集多様性、人々の健康に深く関与しています。歴史上、人類は、菌類・微生物と共に生活し、多くの恩恵を受けてきました。昨年、大村智先生が、イベルメクチン生産菌の発見などの業績で、ノーベル生理学・医学賞を受賞したことは記憶に新しいところです。近現代における菌類学・応用真菌学・微生物学・応用微生物学の発展により、きのこ栽培、タンパク質工学研究、創薬・抗生物質開発、醸造・発酵食品・機能性食品開発、腸内細菌叢・マイクロバイオーム研究、新エネルギー・バイオ燃料開発、砂漠緑化と低肥料化など、近年繰り広げられる菌類・微生物研究は、魅力と期待に溢れています。

 本学の菌類学分野における論文数は、世界トップ50位に迫り、畜産物利用学・酪農科学、乳酸菌科学の研究領域において、国内トップクラスの論文数を誇ります。研究者が、どのような研究を継続的に行ってきたのか、積み上げられた成果が学術的・社会的にどのように評価されているのか、という2点において、顕彰実績は極めて重要な役割を担っており、本学における菌類学・酪農科学・乳酸菌科学分野の優れた成果の証として、次の通り数多く顕彰されています。【紫綬褒章(平成22年),日本農学賞(平成11年・平成20年),日本農学進歩賞(平成27年),森喜作賞(平成28年),日本畜産学会賞(昭和37年・昭和62年),日本酪農科学会賞(平成17年・平成22年),日本畜産学会奨励賞(昭和56・平成23年),日本菌学会奨励賞(平成14年),日本酪農科学会奨励賞(平成17年)】

 この度、信州大学次代クラスター研究センター設立にあたり、本学におけるきのこ学・菌類学,酪農科学・乳酸菌科学分野における高い実績と伝統を継承しつつ、信州大学の研究ワンランクアップのために、「菌類」「微生物」をキーワードとする研究センターの設立に至りました。本研究センターには、担子菌(きのこ類)、子のう菌(かび,酵母)、乳酸菌・ビフィズス菌、大腸菌等、多種多彩な微生物を扱う微生物研究者が結集しており、菌類共生科学・資源利用科学部門/生体調節統合制御部門/超分子複合体部門の3部門により菌類・微生物研究を推進します。近年では、研究成果の国際的評価基準として、掲載学術誌のインパクトファクターや発表論文の引用件数が重視されています。被引用数増加のためには、その前段階として集計対象となる論文数の絶対数が必要であり、菌類・微生物をキーワードとする研究領域を、本学における特色ある分野として強化することには大きな意義があります。

 本研究センターの名称にある「ダイナミズム(dynamism)」とは、「内に秘める力」を意味します。また「創発(emergence)」は、「生物進化の過程やシステムの発展過程において、先行する条件からは予測や説明のできない新しい特性が生み出されること」と定義されています。すなわち創発とは、これまでのシステムからは予想できないような、新しい概念・特性が生み出される現象を意味します。本研究センター自然溢れる信州を覆う森林・山岳中心とする生態系の主要構成要素としての菌類・微生物から、循環型社会の構築に不可欠な菌類・微生物を探索し、その機能を高次・多角的に利用する技術を開発します。また、菌類・微生物およびその代謝産物が有する多彩な機能、さらには遺伝子工学技術により生み出される人工タンパク質の可能性に焦点をあて、菌類・微生物ダイナミズムの創発を目指します。

 第5期科学技術計画(平成28年度〜32年度)では、総論文数に占める被引用回数トップ10%論文数が指標として定められています。本研究センターから発信する研究成果は、世界中の研究者の目に触れやすいハイインパクトジャーナルへの掲載を最重要課題として取り組みます。さらに本研究センターのもう一つの役割として、本学の次代を担う若手研究者の「研究ダイナミズム」を掘り起こし、その潜在能力を創発させる研究環境作りのモデル組織を提案します。これは、信州大学としての研究力の底上げ、大学院生の指導実績、卒業生・修了生の就職状況にも直結する試みと言えます。10年後、20年後における信州大学の将来を見据え、信州大学の教育・研究実績を高いレベルで保証する研究環境モデルを本研究センターから発信して参ります。

2016年10月01日 CFMDセンター長 下里 剛士