保健学科研究紹介2023
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―16―鮫島 敦子 助教佐藤 優香 助教信州大学医学部保健学科看護学専攻卒業、同大学院医学系研究科保健学専攻博士前期課程修了(看護学修士)助産師での病院勤務を経て2015年医学部保健学科看護学専攻着任、現在に至る。信州大学医学部保健学科看護学専攻卒業、同大学院医学系研究科修了(看護学修士)。助産師として病院勤務やJICA海外協力隊(モロッコ)での活動を経て、2023年に信州大学に着任。 オキシトシンは脳下垂体後葉という部分から分泌されるホルモンです。これまでの研究では、陣痛を起こしたり母乳分泌を促進したりする作用があると言われてきました。近年、対人関係に関与することが明らかとなり、さらに、リラックスをさせたり痛みを緩和する作用があることがわかってきています。一方、過剰に分泌されることによって攻撃性が増加することなども少しずつわかってきました。オキシトシンがヒトにどのように作用するかが分かれば、看護・助産ケアに活用できるのではないかと考えています。現在は検査技術科学専攻の先生にご協力いただき、唾液や血液からこの濃度を測定する研究をしながら、母子の愛着や精神的安定性についても研究しています。 『Sexual and Reproductive Health and Rights(SRHR)』という言葉を知っていますか。日本語では、『性と生殖に関する健康と権利』と訳され、安心して性生活を営むことができ、妊娠・出産・人工妊娠中絶に関して身体的・精神的・社会的に本人の意思が尊重され、それらに関わる情報と手段を享受できる権利のことを意味します。 「産む」「産まない」どちらの選択もSRHRの視点から尊重され、新しく豊かな人生が歩めるようにケアが提供されるべきですが、日本では「産まない」選択をした女性へのケアは十分とは言えません。現在は、SRHRの中でも人工妊娠中絶に焦点を当て、女性に関わる専門職である助産師が介入しうる質の高いケアについて研究しています。母性看護学・助産学実験室でのオキシトシン濃度測定の様子ELISAキットを用いた比色競合法による実験プレート2022年3月に発行された新たな中絶ケアガイドライン(左)と中絶サービスを提供する医療者が避けるべき行動が記載されたインフォグラフィック(右)(出典:WHOホームページ) モロッコの同僚達と。海外活動もSRHRに関する課題について考えるきっかけとなりました。お母さんは赤ちゃんを大切そうに抱っこ中絶ケア研究は全国の助産師を対象にオンラインインタビュー調査を実施しました。研究から広がる未来 看護ケアや助産ケアを実践する際に、ヒトの体の仕組を知ることはとても大切です。助産師が試薬や実験機器を取り扱うイメージは薄いかもしれません。周産期に重要とされているオキシトシンに注目し、助産師として研究することで、お母さんや赤ちゃんへのケアがより充実し、順調な育児や近年増加している虐待を予防するケアにつながる可能性があります。卒業後の未来像 看護師、保健師、助産師どの職業にも母子ケアや家族への看護が大切です。卒業後は病院等の医療機関に就職する学生が多くを占めています。研究を通じて、根拠をもつことの大切さを学び、臨床現場に活かすことが出来ます。研究から広がる未来 「産まない」選択をする女性の背景には、性教育の不足や避妊の選択肢の不足、同意なき性行為や性暴力など、様々なSRHRをめぐる課題があります。これらの課題解決に向けては、保健医療分野だけでなく、教育や福祉、ジェンダーなど多分野と協働し、分野横断的なアプロ―チが必要です。すべての人がいつ、どこにいてもSRHRを享受できる社会、支援体制の構築を目指しています。卒業後の未来像 「Think Globally, Act Locally. Think Locally, Act Globally.」という言葉があります。課題をグローバルな視点で考え、地域で行動を起こしていくこと。地域での経験を活かし、世界を変えていくこと。これらを実践する医療職を一緒に目指していきましょう。母性看護学・助産学オキシトシンが及ぼす母子関係への影響に関する研究「産む」「産まない」どちらの選択も尊重される社会を目指して看護学専攻小児・母性看護学領域看護学専攻小児・母性看護学領域

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