繊維学部研究紹介_2018
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教員紹介研究から広がる未来卒業後の未来像応用生物科学科クモやカイコの作り出すシルクはタンパク質で構成され、強さと延びを兼ね備えています。クモの糸に関しては、ヒトの髪の毛の約10分の1の太さでありながら、直径3mm程度まで集めると、体重60kgの人間を支えることができます。しかし、天然のクモやカイコの糸を人工的に創り出すことは未だ困難です。クモやカイコは小さな体からは想像できないような精巧な仕組みで、水素イオン濃度、塩濃度、水分含量、溶液の射出速度を変化させていると考えられていますが、詳細は未だ分かっていません。長い年月をかけて進化したクモやカイコが作り出すシルクの神秘を、学生の皆さんと共に分かち合い、得られた知見を産業応用に役立てます。国立大学で唯一の繊維学部で、クモやカイコのシルクの研究を通じ、仮説を実験で証明する楽しさを共に分かち合いたいと思います。自分で計画を立てて実験し、得られた結果をチームの皆で討論した経験を生かして、皆さん一人ひとりの個性が社会で発揮できることを目指しています。矢澤健二郎助教東京工業大学で博士号を取得後、山形大学での博士研究員、理化学研究所での特別研究員を経て、現職。分子生物学と高分子化学の2本立柱で、クモやカイコのシルクの神秘を解明したい。サイズW7.5cm×H4.35cm配置位置横11cm、縦2.5cmクモは体内でシルク溶液から糸へ変換する。サイズW3.6cm×H4.35cm配置位置横11cm、縦22.2cmクモやカイコの糸は軽く、強度と柔軟性を併せ持ち、細胞毒性が低く、まさに「夢の繊維」です。射出過程に高熱を必要とする化学繊維の製造過程と比較して、クモやカイコは常温で糸を射出します。クモやカイコの糸の製造過程を解明し、人工シルク糸を創り出すことができれば、産業応用が可能です。クモやカイコが作り出すシルクの神秘に迫る!クモをスポンジの間にはさみ、脚を固定し、糸を取り出す。巻き取った糸は光沢があり、手で触れると、その強度を実感できる。教員紹介研究から広がる未来卒業後の未来像応用生物科学科生体組織から細胞を除去した脱細胞化組織は、医療機器として主に欧米で臨床使用され、患者さん自身の組織と馴染みやすいなどの性質が認められ注目されています。脱細胞化処理により、ブタなどの組織をヒトへ移植することが可能になり、異種組織、臓器の医療応用が期待されています。根岸研究室は、脱細胞化組織の特性を解析し、その要因を明らかにし、医療用材料へ応用することを目的としています。また、金属加工・食品加工技術で使用されている真空加圧含浸法は、溶液などを材料へ効率よく導入することを可能にする技術です。この技術を医療用材料に応用し、新たな性質を有する医療用材料の開発を目指しています。研究を通して自ら考え行動すること、チームとして作業することを習得してほしいと考えています。研究室での経験を活かして、様々な分野で活躍してくれることを期待しています。根岸淳助教東京医科歯科大学で博士号(学術)を取得、札幌医科大学で日本学術振興会特別研究員(PD)、株式会社ADEKA研究開発本部研究員を経て現職。生体由来材料の開発、解析を目的としている。(左)ラット頸動脈移植3日目の未処理ブタ橈骨動脈。(右)ラット頸動脈移植2週間目の脱細胞化ブタ橈骨動脈。脱細胞処理により、異種移植の拒絶反応を回避し、血管として機能している(A)凍結乾燥した脱細胞化組織を溶液に浸漬すると組織内の空気が抜けにくいため、不均一な溶液浸透になる。(B)真空加圧含浸法により、組織内の空気を除去した状態で溶液導入が可能になる。ローダミン(色素)標識したポリエチレングリコールが組織内部まで導入できていることが示されている(写真)。サイズW3cm×H2.65cm配置位置横0.5cm、縦7.42cm脱細胞化組織などの生物由来材料は、複雑な生体組織構造を再現可能であり、患者自身の細胞による組織の再構築などが期待できる材料と考えられています。幹細胞医療などと併用することで、複雑な生体組織、臓器を生体外で作り出すことが可能になるかもしれません。また、医療材料開発に異分野の技術を転用することで、今までにない性質を持つ医療機器開発が可能になると考えています。生物由来材料の特性を解明し、新たな医療機器を開発する未処理ブタ橈骨動脈:閉塞脱細胞化ブタ橈骨動脈:開存56

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