繊維学部研究紹介_2018
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教員紹介大川研究室では、水中に生活する生物がつくる繊維の生物科学・生化学研究を進めています。研究対象は主に軟体動物門と節足動物門の生物です。海に棲む二枚貝は、「足糸」と呼ばれる繊維をつくります。足糸繊維は、ジュール・ベルヌ作の冒険小説「海底2万里」にも登場し、カイコも羊も綿花もない海中で手に入る足糸繊維をつかい、潜水艦ノーチラス号の乗組員は衣類をつくったと描かれています。18-19世紀南欧州の貴族達は、足糸繊維の希少な衣類や工芸品を所有し、互いの品を自慢しあったそうです。足糸繊維はタンパク質でできています。タンパク質はアミノ酸が連結した鎖のような分子です。水中で足糸繊維をつくるために最適なアミノ酸の並び順があるはずで、生物進化の途中では、より強い繊維をつくるために、とてつもなく永い時間を経て、アミノ酸配列が次第に改良されながら、今に至っていると考えられます。水中で優れた繊維をつくるために生物が獲得してきた「知恵」は、最新の分析化学を駆使して明らかにされようとしています。「生物がつくった繊維材料」から、研究者が学べることは大変に多いのです。そして、未来の繊維材料工学につながります。研究室の卒業生たちは、現在、紡績、繊維製造、不織布製造、食品原料製造、スポーツ用品、プラスチック加工、天然多糖の加工製造販売、化成品製造などのメーカーの開発・研究部門の技術者として活躍しています。大川浩作教授信州大学繊維学部機能高分子学科卒業後、同大学大学院工学系研究科博士前期課程入学、修了後、東京大学大学院理学系研究科博士課程に進学、1998年博士(理学)取得.1996年信州大学繊維学部助手に着任、2014年より現職。1969年生。ミドリイガイ(Pernaviridis)が水中でつくる不思議な足糸繊維足糸繊維は、先端の接着円盤(左、くっつく部分)、遠位糸状部(中央、硬く強い繊維)、近位糸状部(右、コシの強い繊維)からできています研究から広がる未来卒業後の未来像化学・材料学科機能高分子学コース生物化学研究のフロンティアが拓く未来とは?教員紹介人々の暮らしに欠かせない材料のひとつ「繊維」。この繊維をもっと役立つモノにしていこうという研究に取り組んでいます。現在は、さまざまな異種素材との組み合わせによって、繊維を強くしたり(高性能化)、導電性や抗菌性を付与したり(高機能化)する研究に力を入れています。たとえば、ナノサイズのセルロースやカーボンナノチューブ、金属ナノ粒子などをうまく組み合わせることで繊維単独では発揮できない性質を与えてやることを目標に研究を押し進めています。たとえば、今あるものより2倍強い繊維ができたとします。その結果、信頼性も2倍大きくなりますので、安心・安全社会の構築に貢献できます。また、従来使用していた分と同じ強さが必要な場面では、強くなった分だけ繊維の使用量を半分にすることができます。これにより、使用する材料の量(ひいては廃棄時のゴミも)を半減できたり、飛行機や自動車のような移動体に利用される場合は、ボディーの軽量化により燃費が向上し省エネルギーにつながります。繊維の高性能化・高機能化は、人類の未来に貢献できる研究です。化学・材料会社に就職する者が多いです。繊維系会社はもちろんのこと、非繊維系会社でも繊維を取り扱う企業が多いので、他の大学ではなかなか学ぶことができない繊維に関する知識を修得したという強みを全面に押し出して活躍してくれることを願っています。後藤康夫教授信州大学繊維学部助手を経て、2007年より現職。研究分野は繊維・高分子材料学で、現在は有機材料と無機材料を組み合わせた複合材料や、高分子固体の物性の研究に注力している。繊維の原料となる紡糸溶液調製のために、ポリマーを溶媒に溶解している様子サイズW7.5cm×H4.35cm配置位置横11cm、縦2.5cm作製した繊維を加熱プレート上で延伸(引き延ばし)しているところ。この処理により、繊維強度は10倍以上大きくなる研究から広がる未来卒業後の未来像繊維の走行方向化学・材料学科機能高分子学コースより安全に、より快適に。わたし達の暮らしを支える高機能繊維を作る36

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