H29_繊維学部_研究紹介
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石油、石炭は、大昔の植物バイオマスから変化したもので、燃料、繊維、化成品の原料となっています。これらの製品は、バイオマスからも作ることができ、バイオ燃料、バイオファイバー、グリーンケミカルと呼ばれています。これがバイオリファイナリーです。再生可能なバイオマスの育成から利活用まで、世界中で技術開発が進められています。企業では、バイオマス育成のための組換え技術の開発から、バイオ燃料の石炭火力での燃焼試験まで幅広く技術開発を担当してきました。大学の強みは長期的展望に立った調査研究であり、ファイバーを主軸としたバイオリファイナリーの将来予測と、バイオマス改良の基盤となる植物ゲノム工学技術の研究に取り組みます。バイオマス植物の生産性や病害虫耐性などの特徴はゲノム上の多数の遺伝子が支配しており、交配と選抜により改良がなされてきました。現在の遺伝子組換え技術では、数個の遺伝子を操作しゲノム上に無作為に追加することしかできません。当研究室では、独自に開発したSDI、CSEベクターを用いて、遺伝子の交換と染色体の除去によりゲノムの自由な改変を可能とする植物ゲノム工学技術の開発を行っています。外来の遺伝子が残留せず、育種素材としての信頼性も担保でき、世界標準の技術としての普及を目指します。卒業生はまだ出していませんが、企業の研究現場での経験を活かし、ニーズに合った研究開発への取組み方の指導と、次世代のバイオマス産業の調査分析と将来予測を通じて学生にマッチする分野の探し方をアドバイスしていきます。海老沼宏安教授日本製紙グループ本社エネルギー事業部部長代理を経て2013年4月1日より現職。研究分野は自由に植物のゲノムを改変する植物ゲノム工学と、次世代のバイオマス産業を目指したバイオリファイナリー。SDIベクターは、染色体上の狙った場所に正確に遺伝子を導入する技術です。再現性の高い遺伝子解析を可能とし世界標準技術としての改良普及を目指します。CSEベクターは、植物の染色体を自由に取り除く技術です。ゲノムを改変した個体は、育種素材としての利用価値が高く早期の実用化が期待されます。教員紹介研究から広がる未来卒業後の未来像応用生物科学科バイオマスの育成から利活用まで、植物ゲノム工学とバイオリファイナリー教員紹介梶浦研究室では、カイコとその近縁種ヤママユガ(天蚕)の遺伝育種、脱皮変態、卵形成、系統関係を研究しています。遺伝育種の研究には、亜種と多数の産地別の系統が必要なので、それらを保存しています。このような努力が認められ、天蚕は高度なライフサイエンスの研究資源としてナショナルバイオリソースプロジェクト(文部科学省)に選ばれています。実際、天蚕の優良系統を育成し、天蚕糸産地の天蚕飼育を支援しています。わが国のシルク産業の再活性化につなげようと思います。梶浦研究室では、カイコや天蚕の新品種と新飼育技術を開発し、生糸・天蚕糸産地の活性化と日本のシルク産業の復興を目指しています。飼育に情報通信システムと太陽発電などを取り入れ、次世代の飼育体系とネットワークを構築します。研究から広がる未来は、家蚕生糸・天蚕糸産地の後継者育成、農商工連携事業の人材育成に協力し、シルク産業やさらに他の農作物の生産が活発に営まれるような未来です。大学院進学、繊維会社、食品会社、JA、地元企業、農学系公務員などで活躍しています。梶浦善太教授学位:農学専門分野:農学・応用昆虫、分子遺伝学、育種学キーワード:遺伝、育種、卵形成、バイオリソース天蚕の繭と糸天蚕の繭はきれいな緑色になる。天蚕の仲間は世界中に分布しているがこの色の繭は日本のものだけである。天蚕糸は貴重で高価なものである。研究から広がる未来卒業後の未来像応用生物科学科蚕・野蚕の遺伝資源を活用し、国産糸のブランド化に利用します大型天蚕系統の育成に成功した。上段は普通天蚕系統、下段は大型天蚕系統である。取れる糸量は増加し、1kgの天蚕糸を得るために、普通天蚕系統で3,000個以上の繭を必要としたが、大型天蚕系統はおよそ2000個の繭があればよい。49

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