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08「運動した後に乳製品を摂るという、誰にでも手軽にできる方法で運動の効果をより高めることができる。この手軽さが一番の“ウリ”です」明るく朗らかな笑顔で、今回の研究成果について教えてくれた増木准教授。信州大学先鋭領域融合研究群に属する研究者の中で特に実力のある若手の研究者を評価する「ライジングスター(RS)制度」で認定されたライジングスターの一人です。今回、増木准教授を中心とした研究グループが新たにまとめた研究成果が「運動後に乳製品を摂取することで、運動の効果を高め、筋力増・生活習慣病予防につながる」というものです。能勢博医学系研究科教授が考案したインターバル速歩(早歩きと緩やかな歩行を3分ずつ交互に繰り返すウォーキング法)を、6か月以上継続して実施している高齢女性(平均年齢66歳)37名を対象とした、約5か月間の調査で明らかとなりました。今回、調査対象としたのはインターバル速歩の効果が頭打ちになっていた女性達。速歩だけでも一定の生活習慣病予防効果がありますが、乳製品との併用で、さらなる効果が期待できるようになりました。「乳製品」に着目した理由を増木准教授はこう話します。「よくスポーツジムに行くと、プロテイン(たんぱく質)を売っていますよね。スポーツの後、効果的に筋力や体力を上げるにはたんぱく質と糖分が有効、という事実は良く知られています。でもプロテインみたいな商品って身近じゃない。特別なものじゃなく、手軽なものでも効果があることが証明できれば、誰にでもできる汎用性の高い効果的な運動プログラムができるのではと思って着目したのが、乳製品でした」もともと、インターバル速歩の効果を検証する研究室に、2005年の立ち上げ時から関わってきた増木准教授。インターバル速歩は、高齢者でも気軽に取り組め、無理なく続けられることに大きな利点があります。増木准教授が研究のコンセプトとして大切にしたのもこの“手軽さ”でした。今回の調査で対象者に摂取してもらった乳製品は、ヨーグルトとチーズ。スーパーなどでも手に入る、ごく普通の製品です。ちなみに「ダイエットの大敵」というイメージがある乳製品ですが、その効果を考えると「生活習慣病のある人こそ、実践して欲しい」と増木准教授は話します。増木准教授の専門は運動生理学。運動することによって、人体に備わる機能がどのように変化するのかを理解しようとする分野です。「運動をすると、人の体は安静時と比べて劇的に変化します。心拍数は上がり、筋肉へ流れる血流は安静時の20~30倍にまで上昇します。これだけ変化があれば、体には大きなストレスがかかるし、倒れてしまっても不思議じゃない。でもそうならないのは、運動時、体の機能を制御する別の何かが働いているはずなんです」こう語る増木准教授は、運動習慣の定着率を遺伝子情報から明らかにする研究なども進めてきました。体内で起きる複雑な現象のメカニズムを、膨大なデータを収集・解析することによって明らかにしようとしています。その視点はとてもユニークで探究心に溢れています。ライジングスターとして認定されている4人の研究者のうち、女性研究者はお一人。まだまだ不足していると言われる「リケジョ」が注目される中、「理系で学ぶ女性達に何かメッセージはありますか?」と聞いてみました。すると、少し考え込んだ後、活き活きとした笑顔でこう話してくれました。「やっぱり、データの前では、男性も女性も関係ないと思うんです。データを見ておもしろいと思ったら、思い切って飛び込んでみると結構この世界はおもしろいよ、って思います。最初は何も見えなくても『何かあるはずじゃないか』と…じっとデータを見ていると、見えてくるものがある。自分がおもしろいと思ったそのデータに、賭けてみるか、どうか。そこに男女の違いはありません。研究にはそういうチャンスがたくさん転がっています。その先には、きっともっとおもしろい世界が待っていると思います」そう明るく話す増木准教授の言葉からは、研究への情熱と希望、そして尽きることのない好奇心が満ち溢れていました。データの先には、きっとおもしろい世界が待っている!慢性疾患を引き起こす遺伝子にフォーカス人体の不思議を追う!運動生理学の魅力調査結果が分かる図がこちら。インターバル速歩を行った後、ヨーグルトとチーズ(もしくはどちらか一方)を摂取した人とそうでない人を比べると、摂取した人のみが筋力の増加が認められ、生活習慣病の要因になる「慢性炎症」を引き起こす遺伝子の働きも抑制された。筋力向上や生活習慣病改善の効果があまり期待できない高齢者を対象に、インターバル速歩のみ、インターバル速歩+低乳製品摂取、インターバル速歩+高乳製品摂取の3つのグループで数カ月にわたり筋力と炎症反応性遺伝子のメチル化を測定した。

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