2017環境報告書
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修士論文37修士論文修士論文総合理工学研究科 地球生物圏科学専攻(生物) 関谷 知裕大学院理工学系研究科 化学・材料専攻 材料化学工学コース 里見 洋樹 希少哺乳類カワネズミの糞からの 遺伝子解析技術の確立と 分子系統地理研究トガリネズミ目のカワネズミは日本固有の哺乳類で、本州と九州に生息している。四国では絶滅したとされる。河川生態系ピラミットの最上位に位置づけられる重要な存在であるものの、その希少さ故に生態学的研究などが遅延している状況にある。捕獲ストレス等に極めて脆弱で、一次的な捕獲・GPSセンサー設置の後に放流し、追跡するといったような野外調査は困難であり、個体レベルでの生活圏スケールや、移動分散の地理的スケールに関する知見は極めて断片的である。このような背景から、本研究では、山岳渓流において比較的容易に観察することができるカワネズミの糞をサンプリングし、糞表面に混在するカワネズミ消化器官(腸)の表皮細胞由来のDNAを抽出する方法確立を試行した。これらの遺伝子解析結果を基盤に、遺伝子流動スケールを推定し、移動分散などにおける間接的知見の蓄積を目指した。カワネズミの糞は水際の高湿環境下に排泄されるため、DNAの加水分解やバクテリア増殖など、糞からの遺伝子解析には様々な困難があるものの、これらを克服する解析手法を確立し、1,000塩基超のミトコンドリアDNACytb領域の塩基配列、500塩基超の核DNA ApoB領域の塩基配列を解析した。さらに、カワネズミの分布域広域を対象とした分子系統地理解析を試みた。この結果、信州は遺伝的に大きく分化した2系統群が二次的に接触している極めて重要地域であることが明示された。これらの遺伝子解析手法に関しては、JSM Biology(オープンアクセス)誌上に論文公表した(ダウンロード先 https://www.jscimedcentral.com/Biology/biology-2-1010.pdf)。 木質バイオマスの炭化および タール回収による高収率な 炭化物燃料製造プロセスの開発地球温暖化抑制および化石燃料依存からの脱却を目指して、再生可能エネルギーであるバイオマスの有効利用が期待されている。木質バイオマスの有効利用技術として、大規模な石炭火力発電所での混焼発電が発電効率的にも経済的にも有利である。ただし、木質バイオマスは発熱量、粉砕性が石炭に劣るため、混焼率が10%未満と低いことが課題である。本研究では、それを解決するためにバイオマスの炭化に注目した。しかし、ただ炭化するだけではバイオマスが保有する熱量の多くをタールという揮発成分として損失してしまう。そこで、本研究ではバイオマスを炭化し、炭化物自身でタールを吸着回収することにより、熱量収率を高め、かつ粉砕性の要件を満たす連続的炭化-タール回収プロセスの開発と最適条件の探索を行った。Fig.1 に示すように、二つの電気管状炉を使用し、下側を炭化用、上側をタール回収のための温度制御用とし、30個のヒノキの円柱状試料を炭化炉下方から炉内を引き上げることにより、下方の試料の炭化により生成したタール成分をすでに炭化された上方の試料に連続的に吸着回収する。炭化用電気炉の温度条件を変更し、得られたタール含有炭化物の残留率、熱量を測定し、熱量収率を算出した(Fig.2)。吸着されたタールを含めた残留率は炭化温度とともに低下した。一方、単位質量当たりの熱量は炭化温度とともに増加した。その結果、熱量収率は炭化炉温度350℃で最大となり、95%と高い値を示した。また、350℃以上で粉砕性も著しく向上した。本研究の結果から、混焼燃料として要求される粉砕性を満たしつつ、高い熱量収率で炭化燃料を製造することが可能であることが実証された。

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