工学部 研究紹介2018
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澤⽥研究室博士課程小池雅和君による国際会議での研究発表(Santa Clara University, USA)機械システム⼯学科研究から広がる未来卒業後の未来像澤田研究室では、核融合プラズマ中の原子・分子の反応過程の研究を行っています。核融合発電は、高温・高密度のプラズマ中の核融合反応により発電を行うもので、安全であり、さらに燃料である重水素がほぼ無尽蔵にあることから、次世代の発電方法として期待されています。現在、核融合実験炉の容器中心部では、1億度以上のプラズマが生成され、核融合発電が可能となるレベルに達しています。しかし定常運転時の容器壁の熱負荷の克服が大きな課題となっています。容器壁にプラズマが当たると中性化されて、原子や分子となり壁から放出されます。この原子や分子は、振る舞いをよく理解して上手に制御すると、高温・高密度プラズマから容器壁を守る緩衝材になる可能性があります。澤田研究室では、プラズマから放射される光の解析やシミュレーションにより原子や分子の反応等の理解を深める研究を行なっています。核融合科学研究所などとの共同研究もおこなっています。就職先は、自動車メーカなど、機械システム工学科の一般的な就職先とほぼ同じです。しかしながら、原子・分子の物理(量子力学)の勉強で得た知識は、材料開発などの仕事に役立つことはもちろん、“世界観”として将来を豊かにすると思います。核融合科学研究所等で、大学院生としてプラズマ研究を続ける人もいます。澤田圭司教授京都大学大学院工学研究科博士後期過程修了の後、1994年、信州大学工学部に勤務。主な研究分野はプラズマ分光学。核融合発電の実現へプラズマ中の原⼦・分⼦反応の解明空圧式除振台実験装置研究シーズ研究キーワード核融合・プラズマ・原⼦・分⼦・⽔素・ヘリウム・分光計測・RFプラズマ衝突輻射モデル・中性粒⼦輸送コード核融合発電実証を目指した国際熱核融合炉ITERがフランスで建設されています(日本・EU・ロシア・米国・韓国・中国・インドが参加)。設計には、澤田研究室で開発された計算機コードも利用されたhttp://www.iter.org/gallery/com_image_downloadThe ITER Organization provides images and videos on its public website free of charge for educational and institutional use.核融合プラズマを想定して開発したシミュレーションコードを、澤田研究室のRFプラズマ(右写真)で観測される原子・分子発光線の解析に適用し、計算機コードの信頼性を検証している【先生の学問へのきっかけ】たぶん基本的に勉強が好きなんでしょう。大学時代は、とてもよい時代だったので、3年生までは野球ばっかりやってましたけど。その当時は大学の教員になるとは思ってもいませんでした。大学院生の時代は、私の師匠の力量で、俗世の空気のない天界のような雰囲気でただただ研究を楽しむことができ、本当に幸せでした。これが今につながっていると思います。あたり前のようなものがあたり前に思えない、簡単には物事が理解できない、というのが学問をするものに必要な資質だと思います。主に核融合プラズマを対象として、水素原子・水素分子の反応、空間的な流れ、粒子バランス・エネルギーバランスを理解することを目的として、下記のような詳細な計算機コードの開発を進めています。(a)水素原子衝突輻射モデル・衝突輻射モデルは、電子衝突・自然放出などによる励起原子の生成・消滅のバランスを記述する連立微分方程式。・様々な状態の励起原子の密度(ポピュレーション)が計算され、同時に、自然放出による発光強度や励起状態を経由する過程を含む電離・再結合等の実効的反応速度係数が計算できる。(b)水素分子衝突輻射モデル・主量子数(融合原子)が4以下の電子状態を区別し、さらにそれらの振動状態・回転が区別されている。・精密に準位を扱ったことにより、電子温度・密度を与えると分子発光スペクトルを計算することができる。(c)水素原子・分子中性粒子輸送コード・反応までの飛行距離、反応の種類、反応後の飛行方向等に乱数を用いて粒子を追跡し、各種粒子の密度・流れを計算する。・核融合プラズマにおいて重要とされる分子活性再結合など、反応が網羅されている。・原子・分子の励起状態を経由する過程を含む各種反応の速度係数(衝突輻射モデルで計算)が組み込まれている。・分子活性再結合など初期振動状態により反応速度係数が大きく変わるものがあるため、中性粒子輸送コード中では、異なる振動状態の水素分子を独立な粒子として追跡している。・各種の分子反応により生成される原子の速度分布が精密に考慮されている。・水素原子ライマン発光線の輻射輸送が精密に扱われている。プラズマ中の光の放射・吸収を考慮し、光強度の空間分布と励起原子ポピュレーションの空間分布を収束計算により同時に計算する。これらのモデルの検証のため、研究室のRFプラズマの分光計測をおこなっています。共同研究・外部資⾦獲得実績社会貢献実績プラズマ・核融合学会代議員水素原子・水素分子の内部状態を精密に考慮した核融合周辺プラズマ解析コードの開発(科研費(基盤研究C))92

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