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藤島:ポケモンというキャラクターに着目されたのはどうしてですか?野村:僕らの世代は、ポケモンを見て育った世代なんです。ただのゲームというより、みんなが共有しているある種の文化で、誰もが自分をサトシというアニメの主人公に投影して、ピカチュウとの冒険を空想していたと思うんですね。たまたま僕の場合は、縁があってそれを形として表現することができたんです。学長:世代によって共有した文化があって、それが共通言語になるんですね。我々の世代はウルトラマンでしたが、野村さん世代の場合、ポケモンだった。ただ、ポケモンGOでは、そのバーチャルな世界をリアルな世界と合体させましたね。野村:僕は人を驚かせるのが好きなんです。グーグルにいたころ、毎年「エイプリルフール企画」というのがあり、そこで「ポケモンチャレンジ」というのを作りました。これは、4月1日にグーグルマップにポケモンが出てきて、それをつかまえる(笑)というゲームです。藤島:野村さんのそういう柔らかな発想力や考える力は、どんなところから育まれたと思われますか?野村:先ほど述べた「論理回路」の授業が大きな転機でした。それまで、コンピュータは動いて当たり前だと思っていましたが、内部にもっと分け入ってみると、ちゃんとした理由がある。そこまで仕組みがあるということを、どうしてそれまで考えなかったのだろうと思いました。それ以来、物事を深く掘り下げて考えるようになったと思います。学長:ひとつの授業をきっかけに、興味のあるジャンルに深く入っていかれたということですね。大学生活の醍醐味は、自分なりに課題を深く追究できることです。そのための時間、そのための研究設備など、まさに野村さんのように、有効に活かしてもらいたいと願っています。野村:当時、「論理回路」の授業があまりにも楽しかったので、一学期分の課題を週末に全部終えてしまったことがありました。井澤先生のところへ報告に行ったら、「あとは好きなことをやりなさい」と言ってくださり、自分が興味のあることについて研究することができました。先生がそれを全面的にサポートしてくださったのも、ありがたかったです。和崎克己先生の研究室に入ってからも、なんでも自由にやらせてくださったので、本当にたっぷりの時間を好きなことだけに費やせました。学長:自ら積極的にアプローチする学生がいると、先生はうれしいと思いますよ。能動的に学ぶ学生には、みんな協力を惜しまないはずです。野村:コンピュータ・サイエンスを勉強していると、基本的に情報はすべて英語です。英語で発信される最新情報に接していると、シリコンバレーへのあこがれ、海外へのあこがれは自然に生まれてきました。学長:そのような動機で英語をマスターし、海外に出ていくのはまさに理想的です。ただ、グローバルというと、どうしても言葉の話が先に出てしまいがちですが、大事なことは、自分たちが今過ごしている空間とは違う空間に身を置いてみる、ということです。言い換えれば、異文化体験ですね。自分たちとは異なる文化に触れる体験は、その後の成長に必ずつながっていくと思います。藤島:野村さんの最初のアメリカ体験は?野村:大学院のときに学会でオレゴン州のポートランドに行ったのが最初です。レストランに入って注文ひとつするのでも、向こうの習慣を何も知らなかったので戸惑った経験があります。テレビや映画でアメリカを知っていると思っていても、実際に行ってみると知らないことがいっぱいあるものです。学長:若いときにこそ、そういう経験をしてほしいですね。世界的に見れば、日本は恵まれている国です。外に出たくても出られないという人のほうが圧倒的に多いなかで、努力すれば出られるんですから。ぜひその恵まれた環境を生かしてほしいと思います。藤島:信州大学は北海道から沖縄まで、あらゆるところから学生が集まっていて、多様性に触れる機会が多いですね。学長:信州大学は、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地から学生がやってきます。長野県は約26%で、関東が約24%、東海が約20%、近畿が約9%と、出身地域もバラエティに富んでいるんです。ですから、言葉や習慣が違うのはもちろん、ものの見方、考え方も異なります。多様な人とつきあっているうちに、さまざまな見方や考え方を知ったり身につけたりできる、そこがおもしろいところです。野村:そういえば、学生時代、僕のまわりにもいろんな地域の人がいました。藤島:信州大学の場合、2年次以降は各学部でキャンパスが分かれますが、1年次は全員松本キャンパスで学びます。このグローバルとは、言語だけじゃない。グローバルとは、異なる文化を身をもって体験すること。その経験は将来の糧となる。(学長)ひとつの授業が、学生生活を変えた!多様性の中で花開いた、独創性。若いうちに、もっと海外に出るべき。大学での学びが人生の大きな転機に。ひとつの授業を通じて、自分の物事の考え方すら大きく変わることも。(野村)信州大学伝 統 対 談Vol.505さん

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