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え、有用な微生物や酵素の力によって未利用バイオマス資源から機能性素材を創出する研究も進めていきます。長野県は全国トップの長寿県であり、伝統食・保存食の代表とされる味噌や漬けものなど、発酵食品の宝庫でもあります。そうした長野県の食文化と大学が得意とする科学的エビデンスを結び付け、その特性を証明する試みも進めています。現在、地元伊那市では「食事調査」(既に市民約2,000人を対象に実施)も実施しています。本部門は食品をテーマとしており、現段階でも企業との接点が多く、商品化に関わる先行研究もあります。こうした文化的・栄養学的調査と科学的研究を結びつけることで、信州発の次世代機能性食品の開発や、健康長寿とは何かを見出し、産学官に資するコンソーシアムの構築へ結び付けたいと考えています。微生物のダイナミズムを分子レベルで解明し、応用することが本部門の目標です。研究対象として、主に微生物ダイナミズムの根源として考えられている「超分子複合体」に焦点を当てています。超分子とは、複数の分子が様々な相互作用により、秩序だって集合した分子群のことを指します。タンパク質複合体などがその一種です。様々な生体分子の相互作用が織りなす動的な超分子複合体形成は、まさに生命ダイナミズムの源。微生物由来の超分子複合体の研究は、生命ダイナミズムの理解や応用に寄与する研究領域だといえます。私が行っている研究テーマのひとつが、天然にはない構造や機能を持つ新規タンパク質ナノブロック超分子複合体を、微生物により創製し、応用するという研究です。タンパク質工学分野の究極的目標は、タンパク質の構造・機能を人工的に自由自在にデザインできるようになることです。それができれば、医薬品の開発、新規酵素の設計など、様々な応用の可能性が見えてきます。これまでに、新規にアミノ酸配列を設計した人工タンパク質を、ブロック遊びをするように、ナノスケールで正四面体型や三角柱型などの幾何学的構造体に組み合わせ、さらにそれらを大腸菌によって大量発現させることに成功しました。いわば、微生物による新たなナノテクものづくりです。こうした研究を積み重ねることで、人工設計タンパク質とナノ構造構築の原理的理解を深め、ナノバイオマテリアルや人工ワクチン等の開発に応用できるのではないかと考えています。その他、本部門では、胃液に溶けず腸まで届く、乳酸菌ゲノム由来DNAナノカプセルの開発など、微生物由来の超分子複合体に焦点を当てた様々な研究が進められています。本研究センターを軸に、独自の研究と内外の研究者との連携による共同研究を積極的に推進し、“信州発”微生物ナノバイオテクノロジーものづくりイノベーションをおこしていきたいと考えています。信州発!ナノバイオテクイノベーションをおこす“創って理解する”微生物由来の超分子複合体超分子複合体部門 部門長新井 亮一 信州大学学術研究院(繊維学系)准教授長野県の郷土食・保存食の代表格、野沢菜漬け。長野県の食文化を基礎に、新しい機能性食品の開発を目指す1996年東京大学工学部化学生命工学科卒業。2001年同大学院工学系研究科化学生命工学専攻修了。2001年理化学研究所ゲノム科学総合研究センターリサーチアソシエイト。2004年同研究員。2006年日本学術振興会海外特別研究員(Princeton University,USA)。2007年信州大学ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点特任助教。2012年同繊維学部助教。2014年同学術研究院繊維学系助教。2016年同准教授。2016年より現職。新井 亮一(あらい りょういち)新井准教授が設計・開発した人工タンパク質ナノブロック超分子複合体の構造モデル。正四面体型のほか、樽型、三角柱型、立方体型などの構造モデルがある。これらの研究を基に、茹でても変性しにくい安定的なタンパク質ナノブロックの強化にも成功している(特許出願中)06

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