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国内の食用きのこは約4,500億円の市場規模を有しており、そのうち長野県は約35%のシェアを占め、圧倒的な生産量を誇っています。野生きのこの資源も豊富で、市場に流通する国産マツタケの約8割は、長野県産。国内のきのこ産業を牽引しています。(※出典:農林水産省「平成26年度特用林産物生産統計調査」)本研究部門では、地域資源としてのきのこ類を、高度・多面的に活用するための生物学的手法の開発、ならびに20世紀後半に新たな生物学の一分野として台頭した菌根共生(※2)に関する研究に取り組んでいます。きのこ類の研究は、きのこ産業の国内拠点である長野県という地理的・社会的特性を重視し、国内の国立大学としては最初に教育・研究分野を整備して現在に至っています。また、菌根共生に関する研究においては、農業系・林業系双方に関係する領域を守備範囲とする、数少ない大学です。それらが、「菌類学(Mycology)」分野において、信州大学が論文の世界ランク50位に迫る現状に資する大きな要因にもなっています。きのこ類は、今日でも新種発見が珍しくないほど、膨大な未知資源を持っています。これまで、きのこ類の系統分類、遺伝育種、生理生態などの研究は成果を上げていますが、これらの知見を統合的に検証・発展させるため、きのこの化合物や機能性物質の探索などの解析手法の開発の解明も求められます。そして、その成果を地場産業に導入し、関連産業の新たな方向性を提示することも重要です。本研究部門では、「地域資源の開拓」という観点から、出口の違う各分野を1つに束ねたアプローチを重ね、広範な研究分野での新発見・新展開を同時並行で目指していきます。そして、信州伊那谷におけるきのこ類のジーンバンク的機能の構築や、関連団体とのネットワーク強化も進め、地域と連携しながら新たな産業の方向性をここから見出していくことが重要だと考えています。本部門は、循環型・健康長寿社会の実現に向けて、有用微生物が秘める生体調節機能を探索し、疾患予防または加齢に伴う老化進行を抑制する次世代機能性食品を開発することを目的としています。昨年度より食品機能性表示に関する新たな枠組みとして機能性表示食品制度が設けられ、有用な機能性を活かした食品製品開発のニーズが高まっています。そうした中、疾病予防や健康長寿に寄与する、次世代の機能性食品の開発が注目を集めています。近年、腸内細菌叢と脳機能との関係性が明らかとなってきており、脳機能低下抑制効果を有する乳酸菌の探索が注目されています。その他にも、メタボリックシンドローム発症の抑制作用を持つ乳酸菌株の取得、皮膚角化細胞を介した食品微生物のアトピー性皮膚炎抑制作用効果、乳酸菌の免疫調節機能など、有用微生物の探索・研究は大きな可能性を秘めています。また、食品廃棄物などの増加が社会問題となって久しく、それらの有効利用を進める循環型社会の構築は急務の課題です。食品廃棄物を未利用資源として捉信州大学次代クラスター研究センター特集②菌類・微生物ダイナミズム創発研究センターきのこの未知の可能性を探索する長寿県・信州ならではの機能性食品の開発を目指す信州の「食」から微生物の可能性を探る菌類共生科学・資源利用科学部門 部門長山田 明義 信州大学学術研究院(農学系)准教授生体調節統合制御部門 部門長片山 茂 信州大学学術研究院(農学系)准教授きのこ産業を牽引する地域との連携を(※2:菌根菌と特定の植物は、互いに養分を供給し合う共生関係をつくる。それを菌根共生という。地上に発生するきのこ類の多くは菌根菌)1999年北海道大学水産学部海洋生物資源化学科卒業。2004年同大学院水産科学研究科生命資源科学専攻修了。2004年カナダGuelph大学博士研究員。2006年北海道大学大学院博士研究員。2008年信州大学農学部助教。2015年同学術研究院農学系准教授、同バイオメディカル研究所(併任)。2016年より現職。片山 茂(かたやま しげる)実は、きのこで量産化に至った事例は少なく、量産化は培養の容易な種に限られており、野性資源を充分に活用できているとは言い難いのが現状。山田准教授は、きのこの王様マツタケの栽培化にも挑戦しています1992年信州大学理学部生物学科卒業。1997年筑波大学大学院農学研究科農林学専攻修了。1997年農林水産省農業研究センター博士研究員。1997年茨城県林業技術センター流動研究員。1999年信州大学農学部助手。2000年茨城県林業技術センター客員研究員。2002年信州大学農学部助教授。2014年同学術研究院農学系准教授、同山岳科学研究所(併任)。2016年より現職。山田 明義(やまだ あきよし)05

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