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の共同研究をそう振り返ります。こうした共同研究から分かるように、金井准教授が専門とする「感覚計測工学」とは、製品の機能性や価格といった面だけではなく、その製品が人の五感にもたらす感覚的な影響の側面を客観的に科学し、数値化、または可視化することによって、その魅力を別の角度から捉えていくという学問だといえます。それでは、各方面で行われている金井准教授が行う研究の一端を、もう少しご紹介します。2015年、香港政府系研究機関からの要請で金井准教授が行った共同研究テーマは「快適な睡眠と温熱環境との関係」。敷布団と掛布団の中の温度・湿度と、眠りの深さとの関係性を数値化、可視化して、分析することでした。睡眠は人生の1/3の時間を占めるほどですから、その睡眠の質が健康に大きな影響を及ぼすといわれています。金井准教授は、温度・湿度を変えられる空調制御機能を備えたベッド(布団)を開発し、睡眠中の布団に囲まれた環境の温度・湿度条件を変化させ、脳の活動を計測。心理的に快適と感じ、睡眠に最も適した温度と湿度の関係性を導き出しました。「これまで、経験則に基づいて快適な温度・湿度がどの位かということは語られてきましたが、温度・湿度条件が快適性や睡眠の質にどの程度影響するのかを厳密に検討されたことは無かった。また、快適感マップのように可視化されたことも無かった。快適感マップができれば、メーカーは中綿の材料や寝具の厚さなど、具体的な製品の設計に活かせます」と語ります。もともと、「快適な『温熱環境』を自由にコントロールするシステムが作れないか」という興味を持っていたそうですが、偶然、香港政府系研究機関が「睡眠の研究」に興味を持っているのを知り、数年前に、Fii(※1)と提携していた香港政府系研究機関の所長一向が来日した際に、睡眠の質を可視化する研究プランをプレゼンしたら「是非やりたい」ということなりました。それが、共同研究開始のきっかけだそうです。人の五感を科学すれば、生活を変える新たな視点の新システムが生まれてくる可能性もあります。例えば、人が快適な眠りを得るために必要な環境を、布団の中だけでコントロールできるようなシステム。それができれば、部屋全体の空調を考える必要はありません。光熱費の節約にもなり、環境にもやさしい―。そんなシステムが提案できれば、睡眠の質、ひいては人の生活そのものも、大きく変化するかもしれません。さらに、人の五感のひとつ「視覚」で感じる感覚の計測も、金井准教授の得意とするフィールドです。その研究のひとつの事例が、黒色織物(フォーマルスーツ・礼服)の“高級感”の計測です。「ただ“黒”といっても、織物の場合は凹凸の連続なので、光の反射により明暗の連続した分布ができます。だから本来、素材や構造によって見た目の印象が変わるはず。でも、これまで色の計測というと、大きな範囲で色を計る平均的な計測方法しかありませんでした。しかし人は恐らく、その明暗の分布によって質感を判断し、“高級感”を決めている。だから、その分布を計測する装置を作ったんです」確かに言われてみると、衣服の場合、色だけでなく、“風合い”や“質感”、“光沢感”といった要素によって、印象が大きく変わります。08 さ高級感ある礼服の黒色は人それぞれ香港政府系研究機関との共同研究で睡眠を科学する(※1)ファイバーイノベーション・インキュベーター施設。大学の研究シーズと企業等のニーズをマッチングさせることを目的に設立された繊維学部内の施設敷布団と掛布団の間の温度・湿度を計測する専用装置睡眠時の発汗状態を再現できる「発汗マネキン」。睡眠中の皮膚温や湿度変化等を測定できる。汗の量等を設定する機器が部位ごとに分かれている

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