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10見る角度により色が変化するファスナー「AUROLITE®(オーロライト)」。ファスナーの大手メーカーYKK㈱が2013年に販売を開始したユニークな商品で、2014年に「第2回かわいい感性デザイン賞」で最優秀賞を受賞するなど、今までにないオリジナリティを有する美しい樹脂ファスナーとして話題です。コイルファスナーはさまざまな種類があり、用途に溶け込む控えめな存在。そのため、取扱いの簡便さや耐久性の面が主に追究され、そのデザインは目立たないものが主流でした。しかし、近年、消費者のニーズの多様化、発色技術の向上により、ひとつの意匠として存在感を増しつつあります。そうした中、何かおもしろい商品を生み出そうというYKKが商品開発を検討する中で生まれたのが、「AUROLITE®(オーロライト)」だったそうです。ちなみに、「AUROLITE®(オーロライト)」の発想の原点は「しゃぼん玉」。しゃぼん玉が角度によって虹色に見える理由は、周囲が油膜でおおわれているためです。「AUROLITE®(オーロライト)」はその原理を応用しています。その仕組みはこうです。ファスナーのエレメント部分(噛み合わさる部分)に着色を施し、さらにその上に薄い透明な被膜のコーティングを施します。すると光の一部は被膜の表面で反射し、他の光は被膜を通り抜け、エレメントの表面で反射します。この2通りの光の反射によって、色が微妙に変化する、不思議な色彩が生み出されます。これを「干渉色」といいます。干渉色は、被膜の厚さを変えることで変化するため、そこを調整すれば自在に様々な色彩を生み出すことができます。しかし、いざ商品化となると、どんな被膜でどのような色が出るのか、またどのような色のラインナップをそろえればいいのか、充分に検討する必要が出てきます。しかし、ファスナーのように細く、面積の小さい、さらには角度によって色が変化するものの測光・測色方法は確立されてはいませんでした。そこに、感覚計測工学の技術が活かされました。金井准教授は、カメラと光源を組み合わせた装置を作成し、被膜の種類、厚さ、また光の入射角によってどのような色が出現するのかを検証。また、こうした物理的測定だけでなく、色彩や明度によって「どのような印象を持つか」という心理テストを、海外4カ所を含める数十人の被験者で実施し、データ化を行いました。「人が何かを求める時、『青色のきらきらしたもの』といった具体的な指定ではなく、『スポーティー』とか『かわいい』とかの“概念的”な印象で選びます。物理的測定と心理的官能検査(印象評価)を組み合わせ、どのような被膜を用いればどんな印象のものができるのかを評価する“モデル式”を作り、指標としました。こうしたデータを組み合わせることが、感性をモノづくりに活かすポイントだと思います」と金井准教授。この製品開発の原点ともなった、工学のテクノロジーと感性の組み合わせで、消費者が期待する、また期待以上のモノづくりに活かす。その辺が、感覚計測工学の醍醐味かもしれません。見る角度により色が変化する「AUROLITE®(オーロライト)」構造色の測光・測色から生まれたYKKのコイルファスナーかわいい感性デザイン賞最優秀賞も受賞!YKKのご担当者に聞く※1)AUROLITE®の開発にあたり、信州大学さんには多大なるご協力を頂き誠に感謝申し上げます。AUROLITE®は樹脂ファスナー表面に干渉膜をコーティングしていますが、膜の条件によってどれだけでも色が作れてしまうので、どんな色をラインナップするかが非常に悩ましい部分でした。そこで、信州大学さんとの共同研究で干渉色の見た目の数値化にトライしました。刻々と変化する色を捉えるのには苦労しましたが、「かわいい感」や「高級感」などの印象を数値化することができ、大きく道は開けました。そして、イメージワードとなる「かわいい感」が認められ、かわいい感性デザイン賞を頂くことができた時は、感性工学の結果通り、作り手の思いがしっかり伝わってくれたと安堵しました。この商品はランドセルでの採用を皮切りに、現在はスポーツ、カジュアルブランドなどに採用頂いております。「見せるファスナー」の先駆けとして、より多くの人に愛される商品になってほしいと願っております。「しゃぼん玉」のように色が変化するファスナー「光の干渉現象」を利用したコーティング技術と「感性工学」※1)「かわいい感性デザイン賞」は、日本感性工学会の主催で、日本文化固有の“かわいい”という概念感性価値を学術の対象として設立された。同賞受賞は第2回(2014年)。AUROLITE®は、2014年、日本感性工学会主催の同賞を受賞しています。共同開発のエピソードや、製品の評判など、YKK株式会社工機技術本部分析・解析センター解析室の松永さんに伺ってみました。YKK(株)工機技術本部 分析・解析センター 解析室 松永 薫樹さんまつながしげき

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