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09写真②のように並べてみると、確かに素材によって黒の見え方が変わることが分かります。「高級な黒」の認識は日本人と外国人では相当違うようです。また、礼服の色の研究は、黒の明暗の違いを扱うことから、まったく領域の違うタブレット端末のディスプレイ画面の見やすさ(読みやすさ)の評価研究にまで発展・応用されました。近年、電子書籍などのデジタルコンテンツの急速な普及に伴い、各メーカーは、高解像度化、照明装置の組み込みなど、高付加価値製品を次々と市場へ投入しています。しかし、消費者(読み手)の立場に立った『見やすさ(読みやすさ)』の評価技術は、必ずしも検討が進んではいなかったといいます。「電子端末の文字が読めるのは、文字と背景の『明るさの差』があるから。ですから、ディスプレイ画面の明暗の差を測ることで、各メーカーを比較し、ディスプレイの見やすさを評価する測定装置の構築、解析方法の検討を進めてきました。最終的には、国際標準化技術とすることを目的としています」と金井准教授。すでにその評価技術はIEC(※)へ申請済みとのこと。今後の展開に、期待が広がります。金井准教授がフィールドとする分野は多種多様ですが、繊維学部ならではの衣服の開発も手掛けています。それが、衣服を着た状態でトレーニングができるというコンセプトのスポーツウェアの開発です。「最近スポーツウェアも変わってきていて、かつては動きを阻害しない、ゆったりとしたものが多かったのですが、あえて体に密着させるコンプレッションウェア(ポリウレタンを素材に使ったストレッチ性のあるウェア)が増えてきました。研究室では、服にちょっと細工をして、また別の機能を発現させ、さらに高付加価値のあるウェアを提案、機能測定と検証を行ってきました」例えば、腕を上げる動作の際、あえて腕の筋肉に負荷をかけるように、もともとのコンプレッションウェアの一部に少しだけ伸びにくい素材を貼り付けます。すると、密着した衣服によって体への負荷がダイレクトに伝わるので、動きが制限され、筋肉の活動、消費エネルギーが増加します。金井准教授は、人体にかかる負荷の程度によって、どの程度効果があるのかを測定し、検証しています。ちなみに、この測定技術は大学として既に特許を取得し、スポーツウェアメーカーからこの技術に基づいた商品化も実現されています。初めて「感性工学」という言葉が使われたのは、1986年。そして世界で初めて信州大学繊維学部に感性工学科が誕生したのは、1995年のことです。比較的新しい学問分野ではありますが、近年、産業界から大きな関心が寄せられています。「今、研究室の主なテーマは『快適さ』。そしてその先に『健康』があります。これらは、現代の高付加価値のある製品づくりにおいて重要なキーワードです。感性的な付加価値を、工学的な、モノづくりの中にどう活かすか。『感性工学』は、消費者と生産者をつなぐ翻訳者、橋渡し役といってもいいかもしれません」「付加価値の時代」とよく言われるとおり、年々市場のニーズは多様化し、モノは機能だけでは売れない時代になっています。より感性的な付加価値を求める現代社会で、人々が生活の中で求めるキーワードは、今後さらに増えていくことでしょう。英語でも「Kansei engineering」と記述される「感性工学」は、日本が確立した先端研究領域です。日本のモノづくりがさらにその先へと進むためには、「感性」と「工学」という、一見相容れない「水」と「油」のようにも思う存在を、ひとつのものとして捉え、様々な“価値”を見出すことが、重要なキーワードとなってくるのかもしれません。着ながらトレーニングができる、というコンセプトのスポーツウェアの開発で行った測定の様子。負荷をかける締め付け加工をしたウェアを着て、消費エネルギーや筋活動を調べて効果を検証した体を締め付ける衣服は不快?結論は用途次第!「快適・健康」の製品づくりに感性工学の技術は欠かせない※国際電気標準会議。電気工学、電子工学、および関連した技術を扱う国際的な標準化団体(写真①)ディスプレイの“見やすさ”評価で用いた各メーカーのタブレット。光学的測定と心理評価を組み合わせ、見やすさの評価指標を探索した(写真②)礼服の“高級感”の測定で用いた織り方や素材が違う布地。同じ黒でも色の印象が異なる金井研究室での取材風景。さすがに感覚計測工学の研究室らしく、カラフルなアイテムがいっぱい。もうひとつの写真は、香りが続くテキスタイルサンプル信州大学大学院 総合工学系研究科生命機能・ファイバー工学専攻3年 信州大学大学院 総合工学系研究科生命機能・ファイバー工学専攻3年 丸 弘樹さんまるひろき

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