環境報告書2016|信州大学
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福山 泰治郎2003 年 名古屋大学大学院生命農学研究科 修了2004年 科学技術振興機構 研究員2006年 農業環境技術研究所 特別研究員2008年 金沢大学環日本海域環境研究センター     博士研究員2009年 信州大学農学部 助教霧ヶ峰の木道出水時の三角堰学術研究院(農学系)助教 福山 泰治郎[農学生命科学科 森林・環境共生学コース] (10-7㎥/sec/m)表面流出土砂量図1 単位幅単位時間あたりの表面流出水量と表面流出土砂量の関係2015年は2011年と比較すると10分の1以下になっている。表面流出水量(㎥/sec/m)2010年上限2010年下限2011年2015年■ 登山道の荒廃が湿原の危機を招く 近年、登山道の荒廃が問題となっている。 人が集中して通る登山道には植物がなく、踏み固められた土は水を通しにくくなる。そのため雨が降ると、水は浸み込まずに川のように流れて土砂を運び出す。登山道は次第に深くえぐられて岩がむき出しになるなど歩きにくくなり、登山者は道の外側を歩き出し、高山植物も踏みつけられるなど荒廃の範囲が広がってしまう。環境条件の厳しい山の上では回復の速度が遅く、荒廃が進むばかり…といった状態が日本のあちこちで起きているという。 霧ヶ峰の車山湿原では、登山道を通って運ばれてきた泥水が流入し、1万年かけて形成されたといわれる湿原の環境を変えて、貴重な植生に打撃を与えていた。このままでは湿原そのものが失われてしまうと、地元の人々から農学部に相談が寄せられたのが、この研究の始まりだ。■ 過酷な環境でデータを取り続ける 人が環境に与えた影響はどれほどで、どのような対策がとれるのか。 福山助教は実態を定量的に把握するために、登山道の水と土砂の流出量の観測することから始めた。 霧ヶ峰は国定公園であり、調査も景観を壊さぬよう、工夫して行わなければならない。登山道に敷かれた木道の下に三角堰を設置し流量を観測、採水してろ過し土砂濃度を測定した。また景観に合わせ着色した台に雨量計を置き、登山道利用者人数を把握する歩行者カウンターを設置してデータを取った。 調査ができるのは4月~10月。標高1,800m地点での観測は過酷だ。冬季は雪に閉ざされてしまうため調査機器の一部は冬越え対策をして残すが、破損してしまうものもあるという。融雪期の4月は気温がマイナスになることもある。紫外線も強く、強風に襲われることもしばしばだ。調査には学生と共に出かけることが多いが、一般の登山者とは逆に雨の時こそが出番になる。夜中であっても大雨の調査を逃すわけにはいかず、真っ暗な中で大雨や強風にもめげずに10分おきに採水して朝を迎えたこともあった。 福山助教は「この点一つひとつが学生の苦労の結晶ですよ」とグラフを指さした。■ 木道敷設が土砂流出を減少させた 車山湿原の登山道では、2001年から2010年まで木道の敷設工事が進められた。調査は、2009年から行われているため、木道敷設後5年間の変化もとらえることができた。 前半の調査で、登山道から流出する主な土砂は、多くの登山者が歩きながら撹乱するために生まれる不安定土砂であること、水・土砂の流出は、降雨と融雪によるものの影響が大きいことが判明した。 後半は木道敷設の影響が徐々に現われ、5年を経過して土砂の流出量は10分の1以下に減った。木道があることで、登山道を人が直接踏まなくなったばかりでなく、次第に回復した植生が水の流出を抑えていると考えられる。 助教は「今回の調査は木道敷設の大きな効果を示す根拠となり、木道の敷設推進に役立てられる。今後植生が回復しやすいよう木道の改良が重要」だと考えている。 霧ヶ峰は、鎌倉時代から採草地として野焼きや刈り取りが行われ、人の手入れが美しい半自然を維持してきた。「観光も、環境保全も大切。ここは見てもらうことで環境保全を実感してもらえるフィールド。無秩序な状態でなく、見てもらうための工夫が必要です」と語る助教。木道の敷設推進が望まれる。登山道の土砂の流出を防ぎ湿原の環境を守る*2010年上限:qs=5.8×q1.27  2010年下限: qs=6.0×10-4×q1.24 2011年: qs=3.0×10-5×q0.82 2015年:qs=9.0×10-6×q0.63 R2=0.5842

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