環境報告書2016|信州大学
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廃熱の有効利用を促進しエネルギー問題に光明を学術研究院(工学系)准教授浅岡 龍徳[工学部機械システム工学科]浅岡 龍徳2003年 東京工業大学工学部機械科学科卒業2005年 東京工業大学大学院理工学研究科     修士課程修了2008年 東京工業大学大学院理工学研究科     博士課程修了2008年 青山学院大学助手2009年 青山学院大学助教2013年 信州大学准教授優れた冷却能力を持つ氷スラリーを、誰もが簡単に使えるようにするための研究は続く電気をほとんど使わず廃熱から氷スラリーを生成する吸収式冷凍機の実験装置環境への取り組み022-2 環境研究40■ 廃熱と氷スラリーのマッチング 学生時代からエネルギー問題に関心があり、未利用エネルギーの有効活用を研究テーマに据えている浅岡准教授。研究シーズの一つが「廃熱」だ。 化石燃料の枯渇や環境への危機意識などが高まったこともあって、廃熱利用はここ数十年で急速に実用化が進んでいる。たとえばゴミ焼却場や食品工場のように500~800℃の高温の熱が大量に発生する場では、その廃熱は発電機で電気に変換され有効利用される。発電後の熱(80~200℃)が給湯や暖房に使用されることもあるが、それでも熱の発生量と利用量のバランスがとれているケースはごく稀で、ほとんどの熱は余って廃棄されているのが実情。熱は電気のように広範に「配る(供給する)」ことが難しいため、発電に使えなくなった温度の低い廃熱の用途は狭い。その弱点を補うために、廃熱を冷たいエネルギー(冷水)に生まれ変わらせて、用途を「冷やす」に広げる研究も進んだ。 もともと、機械の冷却や保冷剤などに用いられる氷スラリー(水・水溶液と微細氷が混ざった流動性のあるシャーベット状の氷)を研究していた浅岡准教授が、「廃熱を利用して氷スラリーができれば、熱が配りやすくなり、利用の場が広がる」と考えたのは3年前。それから、廃熱利用の優れた技術の一つである吸収式冷凍機で氷スラリーを作る研究がスタートした。吸収式冷凍機は、廃熱を動力源に、吸湿剤(臭化リチウム、シリカゲルなど)が水などの冷媒を吸収・蒸発させる作用を使ってモノが冷やせるため、電気をほとんど使わない。 廃熱を有効利用する研究はあった。氷スラリーの研究者もいた。だが、廃熱と氷スラリーを結びつけた研究者はいなかった。浅岡准教授は、廃熱で氷スラリーを生み出した最初の人になった。■ 要因過多で実験は常に手探り 現在は、どうすれば氷スラリーや吸収式冷凍機が扱いやすくなるか、コントロール方法の研究に取り組んでいる。 まずは、水(液体)に比べて格段に流れの制御が難しい氷スラリー(液体と固体)を、配管内で詰まらせないためにはどうすればいいかという流動性の問題。さらに、氷スラリーを作る際に水にエタノールを混ぜることで流動性を高めることはできたが、そのために吸収式冷凍機の吸湿剤の性質が変わってしまい、性能低下の原因になりかねない問題。 これらをクリアするために実験を繰り返しているわけだが、要素が多すぎて着眼点が見えにくいことが一番の難しさだという。水を流す実験なら流速や圧力がポイントだとわかるが、氷スラリーの場合はその他に水とエタノールの配分、氷の量、形、大きさ等々、とにかく留意点が多く、実験が失敗したときに原因が判明しにくい。 「わからないことだらけなので、失敗することを前提に半分くらいはヤマを張って(笑)」、粘り強く実験を繰り返し、データを収集し、蓄積し、原因を突き止めていく過程に近道はない。だからこそ、無数にある要素のなかで最も影響力が大きい要因が発見できたときは、「前進したという実感が湧くし、喜びを感じる」のだ。■ 時代を見通した研究への期待 浅岡准教授の研究は、空気中に廃棄されてヒートアイランド現象の一因にもなり、邪魔者扱いされている廃熱が、電気の一部を担うような新たなエネルギーに生まれ変わる可能性を秘めている。とはいえ、「今はまだ廃熱で氷スラリーができただけ、原理の正しさを証明したにすぎない。課題は多く、他の研究者や民間企業との連携も必要で、実用化にはまだまだ遠い」。それでも、官民問わず各方面から支援があり、将来的に社会に必要とされることを見通した研究が期待されていることは明らか。 少し先の未来、エネルギーの仕組みに影響を与えるかもしれない研究が地道に進んでいることを楽しみに思う人は少なくないはずだ。

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