環境報告書2016|信州大学
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修士論文修士論文総合工学系研究科(博士課程) 生物・食料科学専攻 織井 孝治 紫レーザー励起蛍光を用いた 土壌可給態窒素の推定 近年農業を取り巻く状況の変化に伴い、収量を高めるだけでなく地力の低下や環境負荷の低減、省資源などを両立できる栽培技術が求められるようになった。特に畑地においては地力の低下が問題となることが多い。そのため、土壌分析に基づく施肥設計による精密農業が推奨されるようになったが、農業生産の現場においてこれらが行われることは少ない。原因として分析における手間や時間がかかることが挙げられる。そこで、土壌分析をより簡易かつ迅速に行うことが可能となれば作物生産がより効率的に行うことができると考えた。施肥設計を行う上で重要となるのは、無機態窒素の供給力を把握することであり、これに大きく関与するのが可給態窒素と呼ばれる物質である。これは比較的分解されやすい有機態窒素の一部であるが、公定法(培養法)による推定だと1か月の時間とその間の手間が必要である。この課題を解消するために、簡易抽出法と、可視吸光分光法を組み合わせた手法(小川吉雄ら1989)や、紫外吸光分光法を組み合わせた手法(斉藤雅則ら1988、佐藤勉ら1997)が提案されてきたが、いずれも一般化しておらず有用な手法とは言い難い。 そこで、本研究では紫外レーザー励起蛍光分析に着目した。紫外レーザー励起蛍光分析とは、励起光として紫外光をサンプルに照射することで生じる蛍光を解析することで、微量物質の検出などに用いられる分析法である。また、従来の分析方法と比較して酸やアルカリなどの薬品の使用を抑えることができるという利点もある。可給態窒素は土壌中の有機態窒素の一部であるが、一般的に有機物は紫外光で励起することで自家蛍光を生じるとされている。この特性を利用し、風乾土壌に紫外光を照射した際に得られる蛍光を解析することで、可給態窒素の推定が可能なのではないかと考えた。 本実験ではサンプルとして長野県東信地域の畑作土壌30点を風乾させたものを用いた。蛍光計測には、レーザー光源や分光器、ロングパスフィルタなどで構成される自作の蛍光計測系を用いた(図1)。一つのサンプルから取得される蛍光情報(蛍光スペクトル)は4nm間隔のスペクトルデータに変換し、変換したスペクトルの隣り合う3波長の移動平均を取りスムージング処理とし、これを1サンプルから得られた蛍光スペクトルとした。取得した蛍光スペクトルは一次微分スペクトルに変換し、472nmから868nm間の微分値を変数としてPLS回帰分析を行った。各項目の推定精度は、PLS回帰分析によって算出された各推定項目の推定値と公定法による定量値の間の相関係数及び決定係数を算出し評価した。 可給態窒素の定量値を従属変数とした時、推定値と定量値の間の決定係数は0.82を示した(図2)。全窒素を従属変数としたとき決定係数は0.86、全炭素を従属変数としたとき決定係数は0.88、可給態リン酸を従属変数としたとき決定係数は0.60を示した。いずれにおいても高い決定係数を示した。風乾土壌を対象とした紫レーザー励起蛍光分析によって、土壌中の可給態窒素、全窒素、全炭素、可給態リン酸が簡易かつ迅速に同時計測が可能であることが示され、環境負荷の少ない測定方法が開発された。図2 可給態窒素の推定値と定量値の関係図1 蛍光計測系の模式図(mg/100g)可給態窒素定量値可給態窒素推定値(mg/100g)環境への取り組み022-1 環境教育32y = x - 9E-14 R² = 0.83

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