環境報告書2016|信州大学
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特集信州大学国際科学イノベーションセンター信州発イノベーション創出のプラットフォーム―アクア・イノベーション拠点の中核施設 AICSが掲げる二酸化炭素排出の半分近くを削減する目標は、1年間の使用実績で達成されたように見えますが、注意深く検証していくと、必ずしもそうとは断言できないことが分かります。建物の稼働率が低く、まだ十分に使われていないことが「省エネ効果」と取り違えられている可能性があるためです。 実際、二酸化炭素削減の2割を担うと期待されていたドライルームは、1日12時間・230日(計2,760時間)の稼働を想定していました。しかし、実際には年間500時間で、想定の2割に満たない稼働率です。このことを考慮すると、二酸化炭素削減の効果は、まだ十分に発揮されていないのではないかと考えられます。 創エネの代表格である太陽光発電と燃料電池については、ほぼ想定通りに稼働し、「創エネ」の効果は出ていますが、20年後のパネル交換、7年半後の主機(スタック、改質器など)交換などのメンテナンスにかかるコストの問題があります。 長期的なコストだけではありません。国からの補助金で建設されたAICSは、光熱費や機器のメンテナンスにかかる費用を自前で調達しながら、運営していく必要があります。AICSの光熱水費は現在、年間約3,000万円ですが、この他にスーパーコンピュータ、太陽光発電、燃料電池の保守費用が年間2,500万円近くあり、各研究所からの拠出やレンタルラボの収入だけではこれらの費用を賄い切れない状況です。 現在はCOIという巨大プロジェクトの間接経費により運営されていますが、「エコ」研究棟は、短期・長期にわたるコスト削減と、維持費用の獲得が大きな課題となっています。 AICSの燃料電池は、都市ガスを利用して発電するだけではなく、発電ユニットから排熱を回収し、建物の冷暖房に使用するコジェネレーションシステム(CGS)として運用されていることは前述した通りです。ここで課題となるのは、導入された建物において発電量と熱の出力が、建物のエネルギー消費特性とフィットしているかという視点です。 図3は、同じ8月の時刻別平均のAICSの熱需要の収支を見たものです。ここでは、燃料電池の高温排熱を利用した排熱利用吸収式冷凍機(青色)や、燃料電池の低温排熱(橙色)が最大熱出力に近い出力となり、AICS全体の熱需要のベースを賄っていることが確認できます。このように、昨年8月には、排熱の有効利用により、燃料電池の総合熱効率は約71%(商用系統の受電端効率約47%※4)に達していました。 春・秋に関しては総合熱効率が40%程度に落ちることもあり、効率的な運用方法を模索することは課題として残りますが、1年目の実績として、導入された環境技術の有効性が概ね実証されたと言えます。図3 夏期における建物熱需要の収支と燃料電池総合熱効率(8月時刻別平均)最新鋭の「エコ」研究棟短期・長期にわたる設備の管理、維持費などに課題0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%10050050100150[%]排熱利用吸収式冷凍機(冷却)燃料電池低温排熱(加熱)パッケージ空調(冷却)空冷チラー(冷却)燃料電池総合熱効率(LHV)〈kW〉平日休日冷熱温熱建物熱負荷総合熱効率22〜23時20〜21時18〜19時16〜17時14〜15時12〜13時10〜11時8〜9時6〜7時4〜5時2〜3時0〜1時22〜23時20〜21時18〜19時16〜17時14〜15時12〜13時10〜11時8〜9時6〜7時4〜5時2〜3時0〜1時燃料電池+排熱利用 夏場に総合熱効率71%を達成10

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