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信大キャンパスの樹長野(教育)キャンパスコブシ文・写真/荒瀬 輝夫No.06春告げ、豊穣の兆し、コブシに残る原始の美。コブシは北海道から九州、韓国に分布するモクレン科の落葉高木。長野(教育)キャンパス図書館裏側のあまり目立たない場所に、校舎に寄り添うように大きなコブシが立っている。まだ桜もほころびかけの早春、コブシの白花の点描が枯草色の落葉樹林を飾るのは清々しい。じつは秋から翌春の準備をしていて、フェルトペンの先のような綿帽子をかぶった花芽ができている。花は直径10㎝くらいで、花弁の枚数は花によって異なる。雄しべ・雌しべの数は膨大で、裸子植物の松と花のつくりが似ており、モクレン科は被子植物の中でも原始的な植物群に位置付けられる。進化は余計なものを減らす「けち」の論理で進むことが多いが、余計ともいえるほどの花の部美しい白色の花の真ん中にある多数の雄しべ・雌しべと、拳のような形をした果実は、ともにモクレン科コブシの特徴(花の写真は伊那キャンパス構内)。コブシ(Magnolia borealis Kudo)樹高10m、幹の胸高周囲72cm。じょうき ざほ う13長野(教育)キャンパス信大NOW No.75 2012.5.31 掲載品を一途に守っているのがコブシの花の華やかさの源で、「原始の美」とも言えよう。漢字でコブシは「辛夷」と書く。本来これは生薬名であり、コブシという和名の由来は、蕾や果実が拳に見えるからとされる。「花は桜」とは、桜をこよなく愛する日本人の心情を端的に表す言葉であるが、コブシにも桜の異名(「田打ち桜」「種まき桜」など)がある。宮沢賢治の『なめとこ山の熊』にある「ひきざくら」もコブシの方言だ。桜とは似ても似つかぬこの花に桜の名があるのは、人々が春を待ちわびてコブシを意識してきた証であろう。花が多く上向きに咲けば豊作といった豊凶を占う風習もある。これは、人々が自然に抱く畏敬・感謝・祈願の表れかもしれない。図書館図書館正 門

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