環境報告書2015|信州大学
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卒業論文卒業論文卒業論文農学部 食料生産科学科 田口 香穂理学部 地質科学科 黒木 健太郎 前期更新世の日本海における 深海貝形虫群集と海洋環境 日本海は4つの海峡で外洋と通じる閉ざされた縁海であり、南西部の対馬海峡からは唯一の外洋水である対馬暖流が流入する(図1)。対馬暖流は約170万年前(前期更新世)に本格的に流入し始め、日本海の表層環境に大きな影響を与えてきたことが知られている。しかし、暖流の流入開始が深層の環境にどのように影響したのかについては不明な点が多い。そこで本研究は、国際深海科学掘削計画(IODP)第346次航海で日本海中部の水深903 mから採取された125–206万年前の柱状試料に含まれる微小甲殻類、貝形虫化石の群集組成を調べ、前期更新世の深層環境について考察した。 試料全体の傾向としては、現在の日本海の水深900 m付近に生息する貝形虫と類似する群集(図2)が見出されたことから、おおよそ現在と同じような海洋環境が成立していたと考えられる。しかしながら、現在の水深900 m付近(水温0–1℃)より水深200 m付近(水温2–5℃)に主な分布域をもつRobertsonites属が多産したことから、現在より水温が高かった可能性が示唆された。また、温暖種と冷水種の時間的変化に着目すると、温暖種が増加する時期は対馬暖流の流入開始時期(約170万年前)と必ずしも一致しなかったことから、対馬暖流の流入開始が日本海の水深903 m付近の環境に与えた影響は小さかったと考えられる。 図1 日本周辺の海流と掘削地点図2 産出した貝形虫化石の電子顕微鏡写真(スケールバーは200µm) 植物が共生菌を受け入れる 分子メカニズム 土壌性の共生菌であるアーバスキュラー菌根菌は、陸上植物種の約70%と共生関係を築いている。植物は菌根菌と共生することで主にリン酸などの土壌中の無機養分を菌から受け取り、一方で菌は植物から光合成産物を得ることで相利共生が成り立っている(図を参照)。リンは植物の生育にとって重要な元素であり、作物の増収のために多量のリン酸質肥料が使用されている。しかし、その原料であるリン鉱石の資源量は年々減少しており、限りあるリン資源の有効な利用が求められている。そのひとつの方法として農業生産における菌根菌の利用が考えられている。 私たちは菌根共生の農業利用のため、共生能力の高い植物の開発を目指している。本研究では、そのための基礎として菌根共生の構築に関わる植物側の遺伝子の探索を行った。マメ科植物のミヤコグサには菌根菌が共生しない変異体系統がある。この系統を用いてマップベースクローニングと呼ばれる遺伝学的手法で菌根形成に必要な遺伝子の絞り込みを行った。解析の結果、原因遺伝子はミヤコグサの2番染色体上にあり、およそ200遺伝子の範囲にまで絞り込むことができた。今後はさらに解析を進め共生に必要な遺伝子を同定し、植物が菌根菌を受け入れる分子メカニズムを明らかにする。〔図〕植物と菌根菌の相利共生32

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