環境報告書2015|信州大学
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博士論文博士論文総合工学系研究科 物質創成科学専攻 墨 泰孝 重金属汚染土壌の修復に関する 基礎的研究 重金属は農薬等と異なり分解しないため、土壌から除去するか、土壌中で安定化させる、といった汚染対策を行うことになる。土壌から直接重金属を除去する手法として、植物を用いたファイトレメディエーションが注目されている。ファイトレメディエーションの効率化のためには、土壌中の重金属形態や微生物群集と植物の関係についてよく理解する必要がある。 博士論文では、重金属汚染土壌の修復手法に関わる研究の成果をまとめた。特に、これまで同時に検討した例が少ない根圏土壌中の重金属形態と微生物群集の生理的性質・組成との関係を、根からの距離に応じて詳細に解析した。その結果、根圏土壌における重金属形態が根からわずか数mmの範囲で変化し、微生物群集の活性にも影響を及ぼしている事が明らかになった。さらに、根圏と非根圏の土壌間で細菌の分離株の特徴を比較した結果、根圏と非根圏では重金属に対する耐性や各種活性が異なることを示唆する結果が得られた。ファイトレメディエーションの効率化のためには土壌中の重金属形態と微生物群集、植物の相互作用の理解が不可欠であり、本論文で示した結果はその基礎的知見となるものである。土壌中で微生物が果たす役割については不明な点が多く、今後も微生物を中心に土壌の環境動態に関する研究を継続していきたいと考えている。環境への取組み022-1 環境教育修士論文理工学系研究科 材料化学工学専攻 太田 一秀 導光型マイクロチャネル反応器の 設計と光酸化反応への応用 光触媒は自動車のフェンダーミラーの防滴やタイルの防汚など表面に付着した微量汚れの分解浄化に利用されるだけでなく、水分解による水素発生や選択的な有機合成への応用も進んでいる。これらの光触媒反応を実用的なスケールに拡張するためには、光触媒の担持量、導光量、および原料と生成物の供給路を考慮した光化学反応器の設計が必要となるため、コンパクトで触媒の担持表面積を高めた光触媒反応器の有力候補として、多孔質ガラス導光型反応器の開発を進めた。 モデル系として図1のような管状反応器を設計した。この反応器は、ガラス管に直径1 mmのガラスビーズを充填して相互に融着して一体化して多孔質体とし、その内表面に酸化チタンナノ粒子(アナターゼ型、平均粒子径18 nm)を担持したものである。一見すると酸化チタン粒子で光が散乱されるようだが、多孔質ガラス構造を介して反応器の中心まで均一に光が届き、反応器内表面の光触媒を光活性化できる。一方、ビーズの間隙は約200 µmの網目状マイクロ流路となり、処理溶液が光触媒と効果的に接触しながら流通する。直径3 cmの反応器を試作して4-クロロフェノール(上水道の水質基準物質の一つ)の分解除去活性を調べると、多孔質構造により13倍に高活性化することが判った。 この反応器はモジュールとして自由に設計可能であり、組み込み型小型浄水器だけでなく、災害時の可搬浄水施設、光化学合成反応への応用も期待される。図1 多孔質ビーズ反応器(a) 導光の様子. (b) 導光の模式図(赤矢印が光の経路、青矢印が溶液の流路を示す)(a) (b)30

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