2014環境報告書|信州大学
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修士論文修士論文経済・社会政策科学研究科 イノベーションマネジメント専攻 山田 和輝農学研究科 応用生命科学専攻 堀米 由夏再生可能エネルギー事業の普及に向けた政策提言に関する実証研究-複数地域の比較分析による成功要因 の解明と普及事業モデルの作成- 本稿の目的は、「地域に根ざした再生可能エネルギー事業」の事例研究から、事業化の成功要因と普及のための条件を明らかにすることである。 先行研究の検討より、再生可能エネルギー事業の実現には、(ⅰ)資金調達〈資金〉、(ⅱ)事業主体と関係者の参加〈人〉、(ⅲ)各種の課題を解決に導く仕組み〈合意形成の枠組み〉、という3点の要素を備えた「事業スキーム」の概念を導出した。 事業スキームの視点を基に、各5地域の成功事例と不成功事例について比較分析を行い、以下の4点が成功要因であることを特定した。 ①社会関係資本の蓄積と活用(地域住民と自治体のネットワーク)、②責任の明確化、③事業能力(採算性を判断する技術力と経営力)、④資金調達力(市民出資の活用など)、の4点である。 さらに長野県飯田市のおひさま進歩プロジェクトを分析したところ、上記4点の成功要因に加え、様々な事業参加者が実利を得ることができる事業スキームを設計し、合意形成の枠組みを整えた点が最大の成功要因である、という結論に至った。 これら結論を基に、普及のための「指標」を作成した(図表1)。そして、成功要因を踏まえた普及モデルとして、市民出資を活用した大規模発電事業、公共施設での太陽光発電事業、省エネルギー事業、という3事業を組み合わせた事業モデルを提示した。これは、地域住民と自治体双方にメリットを提供することにより合意形成の円滑化を図ることができ、かつ、固定価格買取制度の買取価格が今後低下した場合でも一定の事業採算性を確保できうる事業モデルである。マツタケ単一子実体由来多胞子分離株の生理学的特性比較 マツタケ(Tricholoma matsutake)は、 経済価値の高い食用きのこであるが、 子実体の人工栽培に成功した事例は知られていない。 マツタケはアカマツなどのマツ科の樹木と外生菌根を形成し、 その菌根を取り巻く形で「シロ」と呼ばれる菌糸体コロニーを土壌中に形成する事が知られている。 そして、 このシロから子実体を発生させる。 (図2) 近年、 このシロは複数の異なる遺伝的集団から構成されている事が子実体や菌根のDNA分析から示唆されている。 そこで、 本研究では遺伝的に異なる複数のマツタケ菌株間の相互作用を調べるにあたり、 単一子実体由来の各複数の多胞子分離株を用いて菌根形成能の比較を行った。 MNC寒天培地での窒素および炭素の要求性が異なる単一子実由来の多胞子分離株9菌株を用いて、 アカマツを宿主とした菌根合成を行った。 基質土壌に窒素源としてエビオスを1g/L添加した区(添加区)と添加しない区(対照区)を設け、 24 時間明期(光量子密度140µM/m2s)、 20℃の条件下で5ヶ月間培養を行った。 培養の結果、 菌株No.84で有意に高い菌根形成率を示すとともに、 菌株間で菌根形成能が著しく異なる事が明らかになった。 また、土壌へのエビオス添加の影響も菌株によって異なった。 (図1) 以上の結果から遺伝的に非常に近縁な単一子実体由来の多胞子分離株間で、 アカマツへの菌根形成能は異なり、 自然界においては性質の異なる複数の異なる遺伝子集団が、 シロを形成することが強く示唆された。今後、 複数の菌株を用いたアカマツへの菌根合成により、 菌根やシロ、 さらには子実体に与える影響の解明が期待される。修士論文菌糸感染率(=菌根長/全根長×100)菌糸感染率(%)菌株名(n=6)20.018.016.014.012.010.08.06.04.02.00.0314552798499111121126エビオス無添加エビオス添加ccccccDbbcaAABCDCDCDBCDABCAB図1 自然界における   マツタケ子実体発生機構図2 各菌株および土壌条件における   菌糸感染率図表1 地域に根ざした再生可能エネルギー事業    普及のための指標成功事例不成功事例梼原町浜頓別町飯田市備前市北杜市A市B市C市D市E町地域住民による環境活動の推進◎◎◎◎◎◎×◎◎◎自治体による環境政策の推進◎◎◎◎◎◎◎◎◎×共同関係の構築(地域住民と自治体)◎◎◎◎◎◎×◎◎×地域リーダーの出現◎◎◎◎◎××◎◎×地域リーダーの事業参加◎◎◎◎◎××◎◎×①社会関係資本の蓄積と活用◎◎◎◎◎××◎◎×事業責任(事業化と事業の維持管理)◎◎◎◎◎◎◎×◎-所有責任(設備の所有)◎◎◎◎◎-◎×◎-②責任の明確化◎◎◎◎◎-◎×◎-技術力(賦存量把握と設備の選定)○○○○○×◎×◎-経営力(採算性の判断)○○◎◎○×◎×◎-③事業能力○○○○○×◎×◎-低利子融資/補助金◎○○○◎×-◎△-市民出資-○○○-×--×-④資金調達力◎○○○◎×-◎△-注)◎:地域または事業主体が能力・資源を保有し、活用することができた。  ○:保有はしていなかったが、外部より補完ができ、活用できた。  △: 活用はできたが、条件を十分に満たせなかったため、事業性の低下につながった。  ×:保有・外部補完ができず、活用できなかった。  -:活用の必要がなかった。または事業計画中断により、活用が確認できなかった。出典)筆者作成。30

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