地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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上田市の伝統産業である「上田紬」。この上田紬を、養蚕・製糸(蚕の飼育・糸の製造)から製品化まで一貫して上田市内で行う、まさに「Made In All 上田」復活の取組みが進んでいる。名付けて「上田紬活性化支援事業」。同事業は、信大繊維学部や上田商工会議所が上田紬織物事業者などと連携して、原料供給=「川上」から、紬の製造・マーケティング=「川下」までをプロデュースしている。産学官が一体となり、“蚕都上田”の復活を目指しているのだ。日本の養蚕業は、生活の変遷や海外からの安価な繭・生糸・シルク製品の輸入によって衰退の一途を辿ってきた。生糸の自給率は、国内消費量の1%にも満たない状況だ。こうした中、かつて養蚕業が盛んだった上田地域で繭生産軍手ィプロジェクト蚕飼姫プロジェクト伝統産業上田紬で地域活性へ「大学で学んでいる事を生かして、地域に貢献したい。そして地域の子ども達に笑顔になってもらいたい」。ハナサカ軍手ィプロジェクトの代表で信大繊維学部3年の藤井知奈美さんは意気込みを語る。同プロジェクトは、繊維学部の学生有志団体「オンデマンドリメイク」が運営しており、現在は16名の学生で活動している。独自にデザインしたカラフルな軍手「軍手ィ」を制作・販売し、その売上げで子ども用の「ちび軍手ィ」を作り、上田市を始めとする県内の小学1年生にプレゼントしている。2012年度は、上田市を始めとする全6市町村で約9,000双のちび軍手ィを配布した。デザインは毎年リニューアルしており、全員で案を出し合い決定する。見た目の華やかさだけでなはなく、それぞれターゲットを考え、その人のニーズを想像した色使いやデザインに注力している。「自分たちが学んでいる感性工学という分野を生かして、人が持っている感性と製品の使い易さを考慮し、色のトレンド等を考えながらデザインしています」と藤井さんは語る。良いデザインを作っても、「軍手ィ」を販売しなくては、ちび軍手ィを子ども達に配れない。学生達は、授業やバイト、部活などの合間をぬい、上田市内の小売店を回る営業活動から品物の管理まで全て行なっている。くじけそうになることもあるという。しかし、子ども達にちび軍手ィを配り、喜んでもらえる事が何よりの原動力。毎年12月には、上田市内の小学校でちび軍手ィの贈呈式を行なっている。「子ども達の嬉しそうな顔を見るだけで疲れが飛んでいきます。少しは地域に貢献出来ているのかな、と感じる事が出来るんです」と藤井さんは笑う。こうした地道な活動により、軍手ィの輪は少しずつ広がってきている。県内での販売場所も100カ所を超えた。更に今年度からは、上田市の鹿教湯温泉のキャラクター「かけ爺」とのコラボやサークルKサンクス、モンスターハンターなど様々な連携が実現している。繊維学部学生発信の活動が今や全県下、県外にまで広がってきている。軍手ィの輪が更に広がり、多くの子ども達の手を温め、「軍手ィプロジェクトを通じて地域の繋がりが強くなっていけば嬉しい」と藤井さんは今後の目標を語った。子ども達の笑顔が原動力大学での学びを生かし地域へ恩返し上田紬の原料繭生産を地域住民と共に上田紬の魅力を科学し、ニーズの掘り起こしへこがいひめつむぎぐんてぃを復活させようと2013年度、同事業の柱として「蚕飼姫プロジェクト」が発足した。公募によって集まった一般市民と繊維学部附属農場が協力して原料繭生産のための蚕飼育を行なう。春と秋2度にわたり開催し、延べ50名程の参加者が集まり、6万頭の蚕を当番制で飼育した。蚕を飼育箱に移すところから桑の葉をくべる給桑や糞の掃除、成熟した蚕を蔟に移して繭を作らせる作業「上蔟」、さらに繭の収穫など一連の作業を、繊維学部の金勝廉介名誉教授、茅野誠司技術長の指導のもと1ヶ月に渡って行なった。春には約80kgの繭がとれ、約17kgの白く美しい生糸が生産された。同事業副実行委員長で繊維学部の森川英明教授は「今回のプロジェクトは養蚕の復活ということだけでなく、大学と地域の人たちが積極的に連携し、一般市民の方々にも養蚕や繊維も含めた蚕糸科学に興味を持ってもらい、ひいては自分達の住む蚕都上田に深い理解と誇りを持ってもらうきっかけになればと思っています。」と話す。上田紬の魅力を広く発信するために、繊維学部では感性工学の技術を用いた分析評価なども行なっている。「他の紬に比べ上田紬は、丈夫で日用使いに向いており、色使いも自由に出来るのが特徴」と繊維学部の上條正義教授は話す。上田紬は、結城紬、大島紬と並び日本三大紬としても有名だ。その中で結城紬・大島紬は高級紬として有名であり、派手な色使い等はされていない。対して上田紬は少しカジュアルな和服生地として時代を超えて人気だ。日用的に使い易い鞄や帽子、服などを新たにデザインし製造することで、より多くの人に使ってもらいたいという。上田紬の川上と川下を整備し新たな需要やニーズの掘り起こし、今後は市内の眠っている桑畑の利活用も進める考えだ。プロジェクトの参加者の中にも、蚕室や桑畑がある人もおり、「養蚕を辞めて数十年経ったが、その間に飼育方法や蚕の品種も向上している。また飼い始めたい」という言葉も聞かれた。繊維学部が持つシーズと事業者、市民が連携する事で、化学反応が起こり、蚕都上田の復活に向けて着実な歩みを進めている。軍手ィプロジェクトのメンバー(真ん中が代表の藤井さん)かけゆがいひめこまぶしじょう ぞくつむぎ育てた蚕の繭で作った生糸蚕飼姫プロジェクトでの給桑風景692014.01.31 掲載

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