地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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完成品の裏側に流れる膨大な時間時空を超えた「往来」、地域文化の継承と創造へめ、外部から持ってきたものをただ提供するというだけではその役割は果たせない。地域とのコミュニケーションを行いながら、イベントの中身をきちんと理解し、作品をつくり上げていくマネジメント能力と経験、アイディア力が必須となる。「地方と都市部では文化施設を取り巻く環境に大きな違いがあります。だからこそ、地方における文化施設には変化が求められているのだと思います」。振付家でもある北村准教授は、創作者としての立場からもそう感じたことがあると、この事業に込めた思いを語る。「地方における文化施設は、限られた予算の中で何ができるか、常に模索していく必要があります。こんなことが可能だったのかという経験が、新たなアイディアを生むきっかけになる。大学の持つ知識、人材、資源を共有し提案していくことで、そのきっかけを作ることに繋がっていくと思っています」(北村准教授)。ここで、平成25年12月8日(日)に行われた映像部門第2回実践演習プログラム「ドキュメンタリー映像上映とレクチャー」(講師:村尾静二氏)の様子を紹介する。会場となった茅野市民館のアトリエには、壁伝いに小さなモニターがいくつも並べられ、正面のスクリーンにはバリの無形文化遺産「ワヤン・クリ」(影絵人形芝居)の映像が映し出されていた。その裏側に回ると今度は人形を操る「ダラン」と呼ばれる人が「ワヤン・クリ」を演じる姿が映し出され、そして、実際に使われる色鮮やかに着色された実物の人形が1体飾られていた。この空間は、人は「影」によって神の世界を垣間見ており「影」の裏側に神々の世界が広がっている、という「ワヤン・クリ」の世界観を再現したものだと、この後の講演で知ることになる。小さなモニターには、ダランの日常、ワヤン・クリの上演風景など、バリにおける文化と人々の暮らしが、ほぼ無編集の「アーカイブズ」映像として映し出されていた。「バリの光と影」と題されたこのプログラムは、世間に溢れる「映像」の意味をもう一度見つめ直し、娯楽としてではなく、文化継承のための「アーカイブズ」としての役割を参加者に考えてもらうことが目的だ。バリの文化・社会背景、そして人々の暮らしについてのレクチャーと共に、アーカイブズとしての映像制作、編集といったプロセスを文化人類学・映像人類学の視点から学んだ。「成果にはプロセスがあります。映像の多くは編集されたもの。しかし、それとは無関係の膨大な時間が現地で流れているということを感じて貰いたい」(村尾静二氏)。完成品の裏側に流れる膨大な時間は、「映像」だけでなく「音楽」「ダンス」、また芸術、文化、すべての領域に共通する。本プログラムは、「ダンス」「音楽」「映像」という3部門を設けることで、それぞれの分野における多様な視点を捉えながら、舞台芸術の新たな可能性を探るという目的も持っている。「音楽」部門では、サウンドデザインの領域で、ステージ全体を使った演出を行うことで、音という素材を楽しむ新しいコンサートの形を提供した。「ダンス」部門では、信州大学人文学部芸術ワークショップゼミの学生とアーティストらが共にワークショップを繰り返しながら、独自の演出によるダンスパフォーマンスを模索した。そして、市民館スタッフは、制作過程そのものに関わりながら、様々な要素を持った作品をいかに人々に見せ、提供していくかのプロセスを経験することで、新たな舞台芸術の可能性を見出すきっかけを与えられたことになる。市民らはそうしたプロセスに触れつつ、市民館における新たな芸術文化の「往来」を楽しむ。市民館スタッフの河西誠さんは、「芸術作品の意味を理解し、活用していくためのヒントを毎回与えられている。大学を通じた出会いと刺激がこれからの事業の発展に繋がっていく実感がある」と話す。この実験的な試みは、新しい「信州型舞台芸術マネジメント」の在り方をつくり、人からまちへの「往来」を生み出し、地域文化の継承と創造を担う文化芸術施設のモデルケースを提示していく活動でもある。それが徐々に形作られていけば、次世代へ続く、時空を超えた文化の「往来」が実現していくことになるだろう。バリに暮らす「ダラン」 茅野駅通路でダンスパフォーマンスの練習をしている様子映像部門「バリの光と影」入口部分イベント開催によって多くの人が「往来」する市民館の通路音楽部門「実践演習プログラム」のリハーサルの風景ダンス部門の「基礎演習講座」でディスカッションする様子「実践演習プログラム」の準備風景66信大NOW No.85plus+plus+地域と歩む。

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