地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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母親が一番の主治医子どもの発達は、奇跡気づこう!子どもからのサイン~子どもの発達について~エコチル信州現在までの進捗と今後1991年信州大学医学部卒業。2001~ 2005年信州大学(医学部)助手。2007年信州大学(医学部附属病院)講師。2011年より現職信州大学医学部 小児医学講座稲葉 雄二 准教授1992年産業医科大学卒業。1996年慶應義塾大学(医学部)助手。2003年信州大学(医学部)助教授。2007年信州大学(医学部)教授。信州大学医学部衛生学公衆衛生学講座・小児環境保健疫学研究センター長(兼務)野見山 哲生 教授今、子ども達に何が起こっているのか長野県から全国のデータへ「子どもの“熱”は、小さな体で病原体等に対して必死で抵抗しているために起こる正常な反応です」と稲葉雄二准教授は言う。熱が出ること自体が悪い訳ではない。その原因が「何か」を考えるための子どもからのサインなのだ。解熱剤などで熱を下げるのはあくまでも対処療法なので、熱が出た原因を考えて、体を休ませてあげることが大切である。赤ちゃんの“泣く”というのもサインである。痛いから泣いているのか、オムツや空腹等の不快によって泣いているのか、それともかまって欲しいから泣いているのか、どういうサインなのかを考えてあげる必要がある。「子どもにとって一番の主治医は、お母さんです」と稲葉准教授。顔色やミルクの飲み具合、息づかいなど、普段との違いを一番知っている母親が子どもからのサインを考えてあげることが重要だという。「普段の様子を知り、変化のサインに気づき、自然に治る力を引き出してあげましょう」。子どもの発達は、感覚・運動・感情が繋がり合うことで、進んでいく。最初は、感覚から運動が促される。徐々に目的を持った運動をするようになるのだ。同時に感情による行動が発達していく。快・不快から、喜怒哀楽や妬みや諦めなどの感情を持つようになる。「感情の発達には人と人との関係を持つことが重要です。赤ちゃんにとって一番身近な“人”というのは、多くの場合は、お母さんです。お母さんが赤ちゃんを受け入れることが、愛着を形成していく上で、非常に重要です」と力を込める。子どもが求めているときに、拒否をするということが続くと、子どもの中で不安や不満が残っていくという。愛着行動が満たされなかった子どもは、成長してから自分の欲求を抑える力が弱くなってしまう。こうした成長の中で、子どもに強いこだわりがあったり、体が不器用であったりすると、発達障害や自閉症かもしれない、と不安に思う方は少なくない。しかし、「発達の過程というのは人それぞれです。発達の一時期に不器用になることは往々にしてあります。子どもの発達をもっと楽に考えてもいいのです。でもそれで困っているようであれば無理せずに相談してください。」と稲葉准教授は語る。「子どもが自然に育つ力を見守ってあげましょう。子どもが発達するというのは、奇跡なのです。そしてこの奇跡はみんなに起こりうるのです。周りの人も含めて、認め合い、支え合っていくことが重要です」。「日本では、水頭症や尿道下裂などの先天異常がここ25年で2倍になっています。それだけでなく、小児喘息の増加、男子出生率の減少など様々な変化が起きています」と野見山哲生教授は話す。こうした事例の原因は、様々な要因の関連が指摘されているが、どれも決定的とは言えないのが現状である。「生殖や子どもの成長、発達に対して化学物質が与える影響は、動物実験で少なからず明らかにされてきました。しかし実際に人に影響があるかどうかの確定的な結論は、人が参加してくださる疫学調査によって明らかになるもので、エコチル調査のように地道にデータを蓄積し、分析していくことが大切です」と野見山教授。エコチル調査は、日本中で10万組の赤ちゃんとその両親に協力してもらい調査を行う。調査は両親の血液採取や母親の臍帯血の採取、半年毎のアンケートなどを実施し、募集から追跡調査、解析と実に21年間掛けて行われる。この研究により、子どもの成長・発達に影響を与える環境要因の解析、小児の脆弱生を考慮したリスク管理体制の構築、次世代の子どもが健やかに育つ環境の実現を目指している。エコチル信州には、1140人の母親が参加している(2012年9月22日現在)。全国では、4万5千人が参加しており、目標の10万人に向けて着実に歩みを進めている。今後は、参加者とリサーチコーディネーターや医師との「双方向の会」を始める予定だ。調査で分かったことはすぐにフィードバックするのはもちろん、参加者の声を聞き、育児等の相談を行える場、そしてエコチル参加者が相互に交流する場、としていけるよう準備を進めている。「産前産後に気持ちが落ち込んだり、抑うつ的な状態になるお母さんもいらっしゃいます。出産後間もない時期に行われるこんにちは赤ちゃん事業による、母子訪問を通してサポートを受けて欲しいと思います」。また、産後、抑うつ的になる要因として、両親の育児方針の不一致があるという。育児方針が異なる場合は、一致している場合に比べて、9.91倍も抑うつ的になりやすい、という結果が出ている。出産する前に、しっかりと方針などを話し合うことが重要である。「調査に参加頂いている方々には、心から感謝致します。エコチル調査の研究データが今後、長野県だけでなく、日本全国の子ども達、お母さん、お父さん達に役立つものとなるように邁進してまいります」と力強く語った。①講演会場②バルーンアート③お薬路相談コーナー④歯科相談と歯磨き指導コーナー⑤塗り絵展示⑥昔あそび125346552012.11.30 掲載

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