地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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「ながのブランド郷土食」の目的は、長野市などの食品加工会社で働く技術者のスキルアップを図ると同時に、将来の地域の食品加工業を支える高度専門技術者を養成し、それらを通じて、地域特産品を掘り起こし食品加工業の活性化に資することであった。この目的の実現のために、「ながのブランド郷土食」は教育プログラムとして社会人再教育コースと大学院食品科学コースの2つのコースを設け、食品バイテク技術、食品プロセス技術、ビジネス展開技術、機能性食品開発に関わる知識と技術―などを、食品マーケティングや食のトレンドの情報を整理し、実習も織り交ぜながら、体得することを促してきたのだ。再教育コースの修了生は「食品加工マイスター」の資格認証を与えた。こうした取組みは、少子高齢化や人々の環境意識の高まりに伴い食習慣が大きく変化している一方で、比較的高い技術水準を有しながらも小規模経営が多く、企業単独での開発能力が十分でない長野地域の食品加工業の現状を、地域の力でこじあけるものに他ならない。特に「長寿県Nagano」「地域資源」「伝統食」などをキーワードとして、この取組みを進めたのである。そのため、信大では、工学部、医学部、農学部の有能な人材を学問領域の壁を取り払って活用する仕組みを作った。経営大学院もマーケティングや経営論の視点から参画した。長野市には、2004年に信大と締結した包括的連携協定に基づき、地域資源を活かした先進的産業創出を図る「地域ブランド農商工連携プロジェクト」の一環として、ものづくり支援を行うUFO Nagano(次頁参照)を設置するなどして支援していただいた。そして、地元産業界には、地域食品加工業の底上げのために、前述の社会人再教育コースに技術者を積極的に送り出し、また大学院コース修了者を受け入れていただいてきた。さらに、修了生による新商品開発をフォローアップし、地域食品産業の活性化に寄与することを目的に、修了生の活動組織「ながの食品加工マイスター倶楽部」を設立した。5年間の取組みを通じて、社会人再教育コースで26人、大学院食品科学コースで10人、合計で36人の専門家を輩出した。彼らのほとんどは、現在、地域の食品加工業者などを舞台にして、地域資源を活用した新商品開発などに励んでいる。これが最大の成果だ。食品バイテク、食品プロセス、機能性食品開発などの講義と実習が専門技術者としてスキルアップを促したことは言うまでもないが、特に、食品マーケティングや企業経営論などの社会科学的視点からの講義・実習も併せて実施したことが、受講生の視野を広げ、実践能力を高める効果を示した。また、プロジェクト推進のため整備したアミノ酸分析装置や全有機炭素計、落斜蛍光顕微鏡などの分析・実験機器、流体殺菌装置やレトルト試験機などの食品製造プラント装置などを活用して、地域資源を活用した新商品の試作も進めた。信大工学部が誇る酵素技術や新素材を活用したオリジナル商品も生み出された。これらの取り組みの成果は、毎年2回開催された公開シンポジウムなどの機会を通じて地域に還元し、広く社会的関心も掘り起こしてきたのである。「ながのブランド郷土食」が採択されていた文部科学省の「地域再生人材創出拠点の形成」事業は、2011年度で終了となったが、本プロジェクトの着実な成果は高い評価をいただき、長野市ともさらに今後5年間を目途にプロジェクトを継続実施することが決まっている。長野市との連携をいっそう強化しつつ、今後はさらに県内各地にこうした取組みを広げていくことがテーマになる。そのために、修了生のネットワーク組織である「ながの食品加工マイスター倶楽部」の活動を強化すると同時に、他の食品関連人材育成プログラム(例えば信州直売所学校=前号参照)などとの連携を図り、6次産業化・地域ブランド創出の動きと強いスクラムを組む必要があるだろう。また、本プログラムで産まれた商品には、「ながのブランド郷土食推奨品」のロゴマークと信州大学商標を用意し、その販売拡大にも取組もうとしている。「ながのブランド郷土食」プロジェクトで始まった新たな地域食品産業創出の取組みは、新たな段階へ飛躍しようとしている。マーケティング現場実習遺伝子による米品種判別実験2010年度第1回公開シンポジウム長寿、豊かな食資源、伝統食の継承─地域特性を活かす食品産業を目指してポスト「ながのブランド郷土食」─5年、10年先の地域産業像を見越して合計36人の専門家を輩出─きのこなど地域資源活用の新商品を開発学内の工医農連携が拠点─長野市の行政、産業界との共同で492012.05.31 掲載

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