地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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水資源の豊かな信州の環境を生かし、信州大学では、工学部を中心にナノ水力発電システムの開発や地下水を利用した次世代ヒートポンプ空調システムの開発などが行なわれてきている。しかし、こうした技術を社会に広く導入していくためには、河川等の水利権の壁をクリアしなくてはならない。また、地下水については、利用を規制する法が存在しておらず、ルール整備自体が立ち遅れているのが現状だ。水資源を有効に活用していくためには、総合的・包括的な水に関する法の整備や社会的な合意形成が求められている。こうした中、信州大学の「イノベーション政策に資する公共財としての水資源保全エネルギー利用に関する研究」が平成24年度、(独)科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)の採択事業に選ばれた。同研究は、社会科学研究グループ、自然科学研究グループ、マネジメントグループの3つのグループがそれぞれ連携する、文理融合型という特色ある取り組みだ。シンポジウムでは、山沢清人学長は「公共財としての水の問題は、日本全体で解決していかなくてはいけない問題だ。文理が協力し合って、解を求めていきたい」と挨拶した。続いて龍谷大学の堀尾正靭教授が「地域のグリーンイノベーションと水資源利用」と題して基調講演を行った。堀尾教授は、「現在は、エネルギー費用を地域外、国外に莫大なエネルギー費用を支払っている。河川等の本流はもちろんだが、支流や用水路を評価し、利用していくことが重要だ」と話した。先人が残した水の知恵を生かし、地域のための小水力発電を実現していくことが、地域の活性にも繋がるという意見だ。ディスカッションは、2部構成で開催。信州大学の村山研一教授がコーディネーターを務めた。1部は、池田敏彦名誉教授・研究特任教授、藤縄克之教授、大江裕幸講師、天野良彦教授らに加え、成城大学の伊地知寛博教授、東京電力㈱水力発電技術担当の稲垣守人部長らの計8人で行なわれた。主題は「水」資源の活用。村山教授は「法整備などにも問題がある状態だが、コスト面でもまだまだ技術革新が必要ではないか」と問題提起。これに対し池田名誉教授・特任教授(研究)は「ナノ水車発電機は、工事費込みで1kW=50万円程度に抑える必要がある。ユニット化していくことが大切」と話した。小規模の発電システムでは1発電単価が高くなるのは避けられない。しかし、地域内でのエネルギー循環が進めば、地域外に漏れ出す資源を地域内で循環させることが出来るというメリットは大きい。続いて、地下水を活用した新しい取り組み「地下水制御空調システム」に話が及び、村山教授は「地下水を使うということに市民らは、必ずしもポジティブではない。環境に及ぼす影響を検証しながらルール作りをおこなう必要がある」と問題提起。藤縄教授は、「このシステムでは、活用した地下水をまた地下に戻すが、環境面に対する影響はほとんどない」と話した。環境への負荷等を数値化するなどの科学的なエビデンスを示し、住民の理解を得ながら進めていくこと、また、地域と住民・行政・企業・大学などが連携しながら水マネジメントを進めることの必要性が浮かび上がった。2部では、行政関係のパネリストが中心となり、5名が登壇。行政としての水資源への関わり方が主題となった。堀尾教授は「長野県は行政と現場の距離が非常に近い。行政が積極的に現場の声を汲み上げていくことが自然エネルギーの普及には重要」と話した。会場からも多くの質問が寄せられ、水資源の重要性が再認識された。シンポジウムの最後には、三浦義正副学長が挨拶し、「信州は日本の屋根。水をたくさん持っている。様々な資源を組み合わせ、もっと素晴らしい信州を目指したい」と締めくくった。「水」は人間のあらゆる営みの根幹を担う資源だ。その「水」が近年、世界的に希少な資源となっており、日本の豊かな水資源がグローバルな獲得競争の渦に巻き込まれつつある。だが、現在の法制度や地域運営の仕組みではこれに対応出来ない。制度の見直しと共に、水資源を有効活用する技術の進歩や水資源活用のマネジメントが不可欠だ――今後の「信州型水マネジメントモデル」構想を考えるシンポジウムが、平成25年3月4日にホテルモンターニュ松本において本学主催で開催された。文理融合で進める水利用イノベーション地域との連携が鍵となる水資源活用公共財としての水資源の保全と水利用イノベーションを目指して公共財としての水資源の保全と水利用イノベーションを目指して信州型水マネジメントモデルJST-RISTEX「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」採択事業(文・奥田 悠史)422011 - 2014信大NOW No.80+

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