地域と歩む|信州大学地域戦略センター
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のあるところと重なっている。そしてメアカタマゴバチは、オオルリシジミが蛹で土に潜っている冬から春にかけて、地表でほかのガやチョウの卵に寄生している。この時期に野焼きができれば、メアカタマゴバチは寄生卵ごと焼かれ、駆除ができる。そこへオオルリシジミが成虫となって土から這い出し、天敵が少ない中で産卵すれば、卵は順調に孵化して幼虫になるだろう。江田さんは、まず公園内で試験的な野焼きについて交渉し、2009年に野焼きを実施した。その結果、寄生されたのはわずか2%のみだった。保護対策会議では、この調査データを示して、さらに広い範囲で定期的に野焼きが行えるよう国営公園に交渉し、許可を得た。2010年、2011年と続けて野焼きをすると、2011年には、蛹をまかなくても、オオルリシジミの成虫が現れたのだ。オオルリシジミの幼虫の餌となるクララは、かつて薬草やトイレのうじ殺しとして役立っていた。人々はクララを刈り取らなかったし、農地を維持するための野焼きも、毎年行っていた。オオルリシジミは、人が手を入れた「半自然」だからこそ、生きることができた。江田さんは、そんな人の暮らしの傍らにいる「小さな生き物たちの姿を知ってほしい」と保全保護につながるさまざまなメッセ先輩から研究を引き継いだ江田慧子さんは、寄生率を調査。なんと60~80%の卵が寄生されていた。安曇野市よりも数年遅れで保護活動を始めながら、順調に復活している東御市の30~40%よりずっと多い。「メアカタマゴバチを減らすことができれば、生存率は大幅にあがるはずだ。東御市との違いはどこに?」その違いは、管理方法だった。東御市では自生するクララが田畑のまわりに点在していて、野焼きなどの手入れが行われている。一方安曇野市の保護区は国営公園の計画用地のため、野焼をしていない。江田さんは「野焼き」に注目した。日本人は古くから草原を維持管理するために、野焼きを行ってきた。過去のオオルリシジミの分布もそういった半自然草原ージを発信している。新聞記事を連載し、昨年夏には「ちょうちょのりりぃ オオルリシジミのおはなし」(作:江田慧子/絵:さくらい史門/発行:オフィスエム)という絵本も出版し、読み聞かせまで行った。調査の依頼主でもあり、研究活動のサポート役でもあった那須野代表は、こう語る。「信大チームには、こちらのお願いした調査研究はすべて行っていただき、自然発生という成果につながりました。それは中村寛志研究室が、いかに社会に役立っていくか、対策には何が必要かという視点をもって研究されているからだと思います。この他にも江田さんは、我々の飼育状況を見て、第二化成虫*2を防ぐ対策を研究、検証してくれました。これまでは夏のうちにかなりの蛹が羽化してしまったこともあったのです。この気づきはすばらしかった。これからも保全保護活動を続けていく上で、信州大学と連携を図りながら取り組んでいきたいと思います」中村寛志研究室は、今後も保全保護活動をベースに地域との協力関係が続きそうだ。ちなみに江田さんは、一連の研究により、平成23年度日本環境動物昆虫学会奨励賞を学生として初めて受賞した。人の暮らしと共に生きる小さな生き物いかに社会に役立つか、対策には何が必要かという視点安曇野オオルリシジミ保護対策会議 代表那須野 雅好氏(安曇野市教育委員会文化課文化財保護係 係長)*2 第二化成虫:同年で初めに羽化した成虫の卵から羽化した成虫のこと。オオルリシジミの場合、自然では発生しない。餌のクララの花・つぼみがない時期に成虫になっても死んでしまうため、発生は飼育の妨げとなった。寄生蜂駆除のため、国営公園で野焼きを実施手前左が「ちょうちょのりりぃ オオルリシジミのおはなし」。手前右は信州大学山岳科学総合研究所発行「蝶からのメッセージ」、江田さんが一部執筆し、中村教授と編集した。他は絵本の販促グッズと保全保護活動のためのパンフレット。すべて江田さんが自ら制作した。412012.03.30 掲載

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